何故、急速に高まる核融合熱!(Ⅱ)

原子力

 2023年7月、国際熱核融合実験炉(ITER、イーター)の建設が苦境に陥っていると報じられた。核融合を起こす真空容器の組み立て状況などに問題が見つかり、2025年の建設完成、2035年の核融合燃焼の実施が大幅に遅れる懸念が浮上している。
 総額5兆円にも迫る大プロジェクトである。2極化が進む国際情勢を鑑みると、今後の中国、ロシアなどの国際共同プロジェクトからの去就が心配される

国際熱核融合実験炉(ITER)計画

 ところで、核融合炉開発は1990年代半ばから大きく減速している。これは国際協力で進めている国際熱核融合実験炉(ITER、イーター)計画の大幅な遅れが原因である。

 1985年にITER構想は始まり、米国、ソ連、日本、EUが参加した。その後、1999年の米国脱退、2001年のカナダ加入、2003年の米国復帰とカナダの脱退など出入りがあり、2003年以後に中国、韓国、インドが参加し、2007年に実施主体となるITER国際核融合エネルギー機構が発足した。

図2 ドーナツ形の真空容器がITERの「心臓部」 出典:ITER機構提供

 各国の経済状況と利害が複雑に錯綜することで、完成時期は2025年、実証は2030年以降に5万kWの加熱で50万kWの熱出力を得るのが目標である。ITERはフランス南部のサン・ポール・レ・デュランスに建設中で直径26m、高さ14.5m、遮蔽体を含む総重量は約9000トンである。
 予算はEUが45%、残りの6カ国が約9%ずつ負担する協定である。総建設費は当初予定の5000億円から約2.5兆円を超えるされ、運用費用も含めるとさらに数兆円が追加で必要になる。 

ITERの建設遅延

 2023年7月、国際熱核融合実験炉(ITER)の建設が苦境に陥っていると報じられた。核融合を起こす真空容器の組み立て状況などに問題が見つかり、2025年の建設完成、2035年の核融合燃焼の実施が大幅に遅れる懸念が浮上している。

ITERが現在直面している3課題:
第一真空容器の溶接で、ドーナツ型真空容器は外径16mで、角度40°分に相当する9個のステンレス鋼製モジュールに分けて製造され、ITERサイトで精密溶接される。フランス原子力安全局(ASN)は溶接精度に狂いが生じており工事の進行を認めていない
 ASNは放射線防護や耐震性についても課題を投げかけている。建設主体のITER機構は、これらの課題について規制当局を納得させる改善案と裏付けデータを提出する必要がある。
第二は真空容器の外側に付けられる熱遮蔽板(サーマルシールド)の冷却用配管に割れが見つかった。遮蔽板に冷却用配管を溶接した際の残留応力と遮蔽板を化学薬品で洗浄した際に残った化学物質との相互作用による応力腐食割れとみられる。補修が進められているが、同様な溶接個所は多数ある。
第三に真空容器内側の第一壁素材を毒性のあるベリリウムからタングステンに置き換える議論がある。英国の核融合実験炉JETではベリリウムがプラズマに混じりこむ現象が観測され、安定プラズマを得ることが難しいとの指摘もあるが、ベリリウム製耐熱タイルは製造分担国(ロシア、中国など)と契約済みで、変更に慎重な国もあり合意ができていない。

 ITERは核融合実現を目指す世界のフラッグシップ的な役割を担ってきたが、ここへきて国際共同プロジェクトの弱点が露呈している。部品を多数の国で分担して製造、現地で組み上げるため技術力や品質管理能力の差による問題が大幅な建設の遅れを引き起こしている。

図3 2022年4月に撮影された建設中のITER 出典:ITER機構

 総額5兆円にも迫る大プロジェクトである。2極化が進む国際情勢を鑑みると、今後の中国、ロシアなどの国際共同プロジェクトからの去就が心配される。その場合は、ITER計画自体がとん挫する可能性もある。ベンチャーによる核融合炉の商用化が先行すれば、なおさらである

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