EUを中心に環境規制が強化され、既に、欧米中でのEVバス需要は高まっている。今後、世界的に見て都市部を中心にEVバスの普及は拡大する。しかし、国内では大手バスメーカーの市場投入が遅れたことで、安価な中国系メーカーのEVバスの普及が進んでいるのが現状である。
EVバスは都市部の市内循環に始まり、蓄電池の性能向上に合わせて中・長距離運行用のEVバス/充電スタンドの整備が進であろう。
EVバスの導入状況
2022年7月、Osaka Metro は、2022~2024年度にかけてEVバス100台(大型65台、小型35台)を導入し、2025年大阪・関西万博会場内外の輸送を目指すとともに、万博閉幕後の市内での路線バス・オンデマンドバスに活用すると発表。
また、EVバスの円滑な運行と効率的な充電を両立させるため、2022~2030年度まで間で運行管理システム(FMS)を開発し、車両への充電を制御する電力管理システム(EMS)と連動させる。導入する100台のうち10台程度を自動運転化し、レベル4相当での運行を目指すとしている。
2022年10月、機械商社アルテックはトルコのカルサン製EVバス「e-JEST」を輸入し、日本での需要調査を開始した。全長:6m未満、定員:22人の低床型の小型バスで、BMW製の蓄電池やモーターを搭載し、航続距離:210kmで、ブレーキアシストシステムなど7種類の安全機能を備える。
自治体などの需要を想定し、点検・整備でジェイアールバス関東と連携する。e-JESTは欧州の小型EVバス市場で2021年に5割のシェアで2年連続首位、約20カ国で450台以上を販売している。
2023年2月、ビーワイディージャパンが国内に納入したEVバスは100台に達し、BYDの六価クロム問題は導入企業に少なからず影響を与えた。大型BEバス「K8」を2台導入する西武バスは、一時路線への投入を見合わせ、小型BEバス「J6」を4台導入した京阪バスは詳細の確認に追われた。
2023年3月、京王グループの西東京バスは、BYDの大型EV路線バス「K8」を3台導入すると発表した。東京都内の乗合路線バスでは初の採用である。
2023年3月、東京都渋谷区が運行するコミュニティバス「ハチ公バス」で、EVモーターズ・ジャパン製のEVバス「F8 series-4 Mini Bus」2台の運行が、渋谷駅から明治神宮・千駄ケ谷などを経て再び渋谷駅に至る神宮の杜ルートで開始された。
2023年8月、全国でEVバスの導入が相次いでいると報じられた。自動車検査登録情報協会によると、国内で稼働するEVバスは2022年3月末時点で約150台であったが、2023年4月末までの直近1年超では100台以上が納車された。背景には脱炭素の動きを受けた政府や自治体の補助金がある。
政府は2022年度まで、EVバス導入費用の最大1/3を補助してきた。一般的な大型ディーゼルバスの価格は2500万円程度に対し、中国BYDのEVバスは3850万円で、自治体の補助金も併用すると安く導入できる。また、ディーゼルバスに比べて燃料費も減らせることが普及を促している。
結論:EVバスは売れる!
EVトラックに関しては、国内でもトラック規制が始まり、EVトラック需要は高まるため間違いなく売れる。実際に、2021年から国内物流大手のEVトラック導入が始まったことからも明らかである。しかし、EVバスはどうであろうか?
2023年2月、EUの欧州委員会は、トラックやバスといった大型車の新しい排出規制案を公表した。2030年以降に新車販売される大型車はCO2の排出を2019年比で従来の30→45%削減へ、2035年は65%削減、2040年以降は90%削減とする内容で、今後、欧州議会での議論を経て成立を目指す。
EVバスもEUを中心に規制が強化され、既に、欧米中でのEVバス需要は高まっている。その結果、世界的にはまず都市部を中心にEVバスは普及するであろう。しかし、国内では大手バスメーカーの市場投入が遅れたことで、BEV普及が遅れていると同様にEVバスの普及も遅れる。
EVバスは都市部の市内循環に始まり、用途に応じて中・長距離運行用のEVバス/充電スタンドの整備が進み、時間をかけてFCEVバス/水素ステーションにまで市場は拡大する。
2023年1月、日本バス協会は、2030年までに累計1万台のEVバスを業界内で導入する目標を示し、2023年はEVバス元年になると表明した。国土交通省は、2023年度の補助率を導入費用の最大1/2に高めたほか、補助予算も前年度の約10倍にあたる100億円規模(約500台分)に引き上げた。
自動車検査登録情報協会によると、国内のEVバスは2022年3月末時点で149台にとどまる。現在は中国BYD製が大半を占めるが、EVモーターズ・ジャパンが2023年末に国内組み立て工場を稼働させる計画、2024年度に国産バスメーカーの量産も計画されるなど関心も高まりつつあるとしている。
最大の課題はEVバス価格である。安価な蓄電池をベースとした低コストの中国製EVバスが導入されて実績を積んでおり、周回遅れの国内メーカーは太刀打ちできずに敗退することが目に見える。政府は法規制と国内産業育成のための支援策を、タイムリーに発動する必要がある。
普通乗用車と異なりバスの買い替え寿命は20~30年と長い。一度、導入されて都市交通システムに組み込まれた中国製EVバスが実績を積むと強敵となる。
ところで、2022年6月から西日本鉄道は、住友商事を通じて台湾のEVバスメーカーのRACエレクトリック・ビークルで既存のディーゼルエンジン・バス1台を電動化して、北九州市で運行した。
2023年6月には、RACエレクトリック・ビークルの技術指導を受け、西鉄グループの西鉄車体技術が改造した「レトロフィット電気バス」2台が、天神や博多駅周辺などで運行開始した。
リチウムイオン電池は合計10パック(容量:235kWh)を搭載し、航続距離:140km程度、満充電に6~7時間を要する。改造費:約1800万円/台である。西鉄は2023年度、福岡地区で16台と北九州で4台、計20台のレトロフィット電気バスを導入する計画である。
通常、新車のディーゼルバスは2500万円ほどで約25年使える。レトロフィット電気バスは約1800万円だが、改造後の使用期間を10年程度と考えるとまだ割高感があるとしている。しかし、ディーゼル車からEVバスへの過渡期においては必要な技術であり、事業性が注目される。
将来の大型バスは燃料電池バスと考え、2018年3月にトヨタ自動車はFCバス「SORA」を発売した。そのため、国内の大手バスメーカーによるEVバスの量産化が遅れた節がある。「未来予測の失敗である!」
一方、FCバスは東京オリンピックを目指して東京都で導入が進められたが、高コスト(1億円/ 台)と水素ステーションの設置が地方で遅れたため、普及には至っていないのが現状である。
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