EV充電時間の短縮を目指して(Ⅱ)

自動車

 現在、世界のBEV急速充電器には、「日本のCHAdeMO(チャデモ)」、「中国のGB/T」、「EUと北米のCCS(コンボ)」、「テスラのスーパーチャージャー」の4規格が存在する。それぞれコネクタと車側インレットの形式、BEVと急速充電器間の通信方式に特徴がある。
 各規格にはそれぞれの開発経緯があるため、今後、急速に規格の統一が進むことはないであろう

急速充電スタンドの規格と課題

急速充電規格の現状

 現在、世界のBEV急速充電器には、「日本のCHAdeMO(チャデモ)」、「中国のGB/T」、「EUと北米のCCS(コンボ)」、「テスラのスーパーチャージャー」の4規格が存在する。それぞれコネクタと車側インレットの形式、BEVと急速充電器間の通信方式に特徴がある。 

 2009年、日本のCHAdeMOは、世界で最も早く設置された「CHAdeMO 1.0(最大出力:50kW)」に続き、「CHAdeMO 1.2(200kW)」、「CHAdeMO 2.0(400kW)」、「CHAdeMO 3.0(900kW)」の4規格が揃っている。
 国内で出力50kW以上の高出力急速充電器の設置はe-Mobility Powerが進めており、2021年から90kWの設置を開始しが、未だに「CHAdeMO 1.0」に留まっているのが現状である。

 また、2013年に中国のGB/Tは日本と同じCAN(Controller Area Network)通信、2013~2014年にEUと北米のCCSはPLC(Power Line Communication)通信を採用して設置が始まった。いずれの方式もIEC(国際電気標準会議)標準になっている。
 さらに、CHAdeMOはIEEE(米国電気電子学会)標準、米国のCCS方式はSAE(米国自動車技術者協会)標準にもなっている。

 一方、2012年、独自路線を歩むテスラのスーパーチャージャーもCAN通信を採用して市場展開を進めており、2023年6月にはテスラ規格はSAEで承認された。テスラは、スーパーチャージャーを他社BEVにも開放することを表明済みで、規格名もNACS(北米充電標準規格)に変更している。

 ところで、さらなる高出力化のため、2018年から日本と中国で新たな充電規格「ChaoJi(チャオジ)」の開発が始められたが、実証試験段階にあるため対応するBEVは存在しない。各規格にはそれぞれの開発経緯があるため、今後、急速に規格の統一が進むことはないであろう。

 2020年末での高出力急速充電器の設置状況は、CHAdeMO規格が3.6万基、中国GB/T規格が30万基、CCS規格が欧米で1.3万基、テスラ規格(NACS)のスーパーチャージャーが2.5万基である。しかし、このシェアはゆっくりと変化を始めている。

図6 各国のBEV用急速充電器の比較

BEVメーカーの最新動向

 一般にBEVメーカーは、車側インレットを現地の規格、もしくは充電インフラの普及状況に合わせて柔軟に対応してユーザーに提供している。
 例えば、テスラの中国製モデル3/Yには、中国GB/T規格とテスラ規格の充電口が2つ用意されている。他地域では、オプションのアタッチメントを接続することで、CHAdeMO規格の急速充電器と接続できる。欧州向けテスラ車では、CCS規格の急速充電器にも対応した車両を販売開始している。

 現在、テスラは北米で1.2万基以上のNACS規格の急速充電設備を展開し、シェアは約6割に達しており、2023年5月以降、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、ドイツのメルセデス・ベンツグループの大手が採用を決め、北米の急速充電規格で事実上の標準になった。
 米政府はBEVや電池の自国生産を後押ししており、充電インフラ整備にも補助金を出し2030年までに50万基を設置する目標を掲げている。

 このような状況から、2023年7月、CHAdeMOの普及を後押ししていた日産自動車も、北米向けのBEVにテスラのNACS規格を2025年から採用すると発表した。北米で販売する自社BEV「アリア」にはアダプターを提供してNACS規格と欧州のCCS規格の両方で充電可能とする。

 一方で、2023年7月、BMWグループ、ホンダ、GM、現代自動車、起亜、ステランティス、メルセデス・ベンツグループの7社は北米のBEV向け充電網の整備で提携すると発表した。資金を出し合い年内に合弁会社を立ち上げ、2024年夏から急速充電器の設置を始め、2030年に3万基以上の設置を目指す。
 充電に使う電力は再生可能エネルギー由来と限定し、設置する急速充電器はCCS規格に加えて、テスラのNACS規格の両方に対応する充電器とし、すべてのメーカーのEVに充電網を開放する。

 7社連合は充電インフラを自前で構築して保有・運営する見通しで、合弁会社が取得したBEVの充電データや、車載電池の消耗度合いなどの重要情報は参画メーカーで共有する。充電インフラから得られるデータをBEV開発に反映してきたのは、テスラがBEVで躍進した理由の一つである。

 2023年8月 テスラは、自社の長距離トラック向けの充電設備の整備に関し、米政府に9700万ドル(約140億円)の補助金拠出を申請した。2400万ドルは自前で拠出する。テスラセミのために、大型版急速充電ネットワーク「メガチャージャー」を各地に設置する計画である。
 米国ブルームバーグ通信によると、テキサス州からカリフォルニア州までの輸送路に10拠点近いセミ向けの急速充電ステーションを整備する計画である。 

 今後、北米におけるテスラ車の販売シェアは確実に拡大する。しかし、7社連合が危機感を覚えるのは、テスラのスーパーチャージャーが北米でシェア6割に達していることであろう。充電インフラとBEVを一体化したビジネスモデルは、従来の延長線上では考えられなかった。
 GM、メルセデスベンツなど主要メーカーが、自社EVの標準仕様にテスラ規格を採用する動きが相次いでおり、テスラの優位性がさらに強まる。

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