福島第一原発の処理水海洋放出問題とは

原子力

 東京電力福島第一原子力発電所の事故により、日本産食品の輸入規制問題が起きている。13年目を迎えてた今でも、近隣諸国との間で完全撤廃には至っていない。それに加えて、昨今では福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出問題がクローズアップされている
 日本産食品の生産者、特に水産食品の生産者にとっては、風評被害が再燃・拡大することに大きな危機感を抱かざるを得ないのが現状である。

処理水海洋放出の経緯

政府が処理水の海洋放出方針を決定

 2021年4月13日、日本政府は処理水の海洋放出方針を決定した。東日本大震災で破壊された東京電力福島第一原子力発電所から排出されている放射性物質を含むおよそ100万トン以上の処理済み汚染水を、福島県沖の太平洋に放出する計画を承認した。海洋放出は、2023年に始まる。
 この処理水は、同原発の核燃料を冷却するために使用されているもので、飲料水と同じ放射能レベルまで海水で希釈してから放出する。しかし、地元の漁業団体に加えて、近隣の中国や韓国などがこの計画には反対の声が上がっている。(このBBCニュースでは、汚染水の希釈放出と読める!)

図1 処理された水は東電が保有する巨大なタンクに保管されているが、
2022年には満杯になる。タンクを設置する土地も底をついている。

2023年中に100万トン以上を海洋放出

 2023年1月13日、日本政府は、福島第一原子力発電所の処理水について2023年中に海洋放出する方針を発表した。政府と東京電力は、処理水についてほとんどの放射性物質の濃度を国の基準値以下に薄める処理を済ませた水と説明した
 国際原子力機関(IAEA)は、この海洋放出案を安全としている。しかし、近隣諸国からは懸念の声がでている。松野博一官房長官は記者会見で、放出時期は「本年春から夏頃と見込んで」いると述べ、「IAEAの包括的報告書の発出」を経ての放出になる見通しを説明した。

 福島第一原子力発電所からは、およそ100トン/日の汚染水が発生する。これには地下水、海水、冷却水が含まれる。多核種除去設備(ALPS)でフィルター処理した水が、原発構内のタンクで保管されている。保管される処理水の量は130万トンを超え、保管場所がなくなりつつある。

 汚染水に含まれるほとんどの放射性物質はALPSの処理で除去されるが、東京電力によると残るトリチウムの濃度は国の基準を超えている。専門家はトリチウムの除去はきわめて難しく、人間に危険を及ぼすのは大量に取り込まれた場合のみ。(BBCニュースでは、トリチウム濃度は基準を超えている!)

IAEAが処理水の安全性を公表

 2023年7月4日、IAEAは福島第一原子力発電所にたまる処理水について、日本による海への放出計画は国際基準に合致しているとする包括報告書を公表した。報告書では処理水の放出が人や環境に与える影響は「無視できる程度」とし、IAEAは岸田文雄首相に手渡した。
 IAEAラファエル・グロッシ事務局長は、2年にわたる安全審査の結果は公平かつ科学的なものだと述べ、汚染水放出後も日本に関わり続けると約束した。

 汚染水に含まれるほとんどの放射性物質はALPSの処理で取り除かれるが、水素の放射性同位体であるトリチウムを水から分離して取り除くのは難しい。世界中の原子力発電所は、福島の処理水を上回る濃度のトリチウムを含む廃水を定期的に放出している。

 BBCニュースは、「IAEAの報告書では日本国民や近隣諸国の懸念を和らげることはほとんど不可能だろう」と報じた。地元の漁業関係者は、さらなる風評被害につながると猛反発。中国はIAEAに計画を承認しないよう警告。韓国では食の安全への懸念から、海洋放出前の海塩の買いだめが報じられた。

原子力規制委員会が関連設備の安全性評価を完了

 2023年7月7日、原子力規制委員会は、政府が8月にも始める福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出に関し、関連設備の使用前検査の「合格」を示す終了証を東電に交付した。これで政府は海洋放出に向けた安全性の評価作業を全て終了した。
 原子力規制委員会は、6月28〜30日に処理水の移送・希釈・放出設備の最終検査を実施しており、海洋放出時のトラブルに備える緊急遮断弁などの性能も現地で確認した。

 同日、処理水の海洋放出に反対する中国は、税関総署が日本産食品の輸入規制を強化し、放射能汚染食品の対中輸出を防ぎ、国内消費者の安全を守ると発表した。また、香港政府も海洋放出された場合には「リスクの高い地域の海産物や農産品の輸入禁止を検討している」と述べた。

政府は県漁連にIAEAの報告書内容を説明

 2023年7月11日、処理水の海洋放出をめぐり、松野博一官房長官は地元漁業者など関係者の理解を得るため「意思疎通を繰り返し、信頼関係を深めていくことが重要」と述べた。
 かって2015年に、政府と東電は「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分も行わない」と福島県漁業協同組合連合会に文書で伝えている。

 西村康稔経済産業相は、福島県で同県漁業協同組合連合会の幹部らと面会し、処理水の放出計画が「国際的な安全基準に合致している」と結論づけたIAEAの報告書内容を説明した。県漁連の野崎哲会長は「我々は基本的に処理水の海洋放出には反対」と述べ、折り合うことはなかった。

 政府は2021年度の補正予算で300億円を計上し、処理水の放出に関連して海産物の売り上げや需要が風評被害により減った場合の買い取りや保管を支援する基金を創設した。2022年度には漁場の開拓などを支える500億円の別の基金も追加した。
 政府は現状、風評対策基金の上乗せや対象範囲の拡大は検討していない。政府基金を通じた補償とは別に東電が風評被害を賠償する仕組みもあるが、その明確な基準は明らかではない。

 政府はIAEAのお墨付きを盾に、福島第一原発の処理水海洋放出を進めようとしている。これに対して重要顧客の中国・香港からは反対の声が出ており、風評被害が垣間見えた。当初から福島県の漁業関係者は反対の声を上げており、危惧した通りの展開となった。 

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