水素基本戦略の改訂について(Ⅰ)

エネルギー

 2023年6月、日本は「水素基本戦略」を6年ぶりに改定した。国内の水素製造と海外からの水素購入を合わせて、2040年までに1200万トン/年に拡大する目標を新たに設定し、官民合わせて今後15年間で15兆円の投資を行うとした。

 今回の「水素基本戦略」の改訂では、新たな目標・基準を設定したかに見えるが、水素の供給目標は2040年の中間目標値を示すに留まり、水素の供給コストは据え置き、低炭素水素への移行では暗にブルー水素を許容した。日本は水素で世界をリードしてきたが、その面影は薄れてしまった。 

水素基本戦略とは

  2017 年12月、日本は世界で初めてとなる水素の国家戦略「水素基本戦略」を策定した。これを皮切りに、2023 年までに日本を含め26の国・地域が水素戦略を策定した。水素は脱炭素およびエネルギー安全保障の観点のみならず、次なる経済成長のドライバーとして位置付けられた

主要国が策定した水素戦略:
米国は、2021年6月開始の「Hydrogen Shot6」で、10年以内にクリーン水素を1ドル/kgにすると発表。2023年6月に「国家クリーン水素戦略」を発表し、2030年までに1000万トン/年、2040 年までに2000万トン/年、2050 年までに5000 万トン/年のクリーン水素製造を目指す。
欧州委員会は、2020年7月に「水素戦略」を発表し、2030年までに最低40GWの再生可能エネルギー水電解装置の導入、最大1000万トン/年のグリーン水素の域内生産目標を掲げた。2022年5月発表の「リパワーEU」計画では、域外からも1000万トン/年の輸入目標を掲げた。
英国は、2022年4月に「エネルギー安全保障戦略」で、2030年までに10GWの国内低炭素水素製造能力を目指し、そのうち5GW以上を水電解装置由来のグリーン水素とする目標を掲げた。
ドイツは、2020年6月に「国家水素戦略」で、2030年までに5GWの水素製造能力、2035~2040 年までに5GW規模の水素製造能力の追加を目指す。その後、2021年11月の連立協定では、2030年までに10GWの水素製造能力を目指すと前倒しを表明した。
フランスは、2020年9月に「国家水素戦略」で、水電解装置を2030年までに6.5GW導入する目標を掲げ、再生可能エネルギー由来水素原子力由来水素を対象とした。
中国は、2022年3月に「水素エネルギー産業発展中長期計画」を策定し、2025年にFCEV5万台、再生可能エネルギー由来水素の製造10~20万トン/年、CO2排出削減量100~200 万トン/年の実現を掲げた。
韓国は、2019年1月に「水素経済活性化ロードマップ」で水素供給を2040年に526万トン/年、3000ウォン/kgを目指し、2021年10月に「水素先導国家ビジョン」でクリーン水素を2030年に100万トン/年(内グリーン水素は25万トン/年)、2050 年に500万トン/年(グリーン水素は300万トン/年)の目標を掲げた。

 以上のように、欧州・中国は水素戦略で製造する水素を再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」と明記し、米国・韓国は「クリーン水素」と表記してブルー水素を容認している。ただし、韓国はグリーン水素の目標値を明記している。

 2023年6月、日本は水素基本戦略を6年ぶりに改定した。国内の水素製造と海外からの水素購入を合わせて、2040年までに1200万トン/年とする目標を新たに設定し、官民合わせて今後15年間で15兆円の投資を行うとした。
 また、2030年までに国内外における日本関連企業の水電解装置の導入目標を、15GW程度と設定した。水素のコスト目標は、2030年に30円/Nm3程度、将来的に20円/Nm3程度と、従来のまま据え置いた。詳細を次に示す。 

水素社会実現のための目標・基準

 今回の「水素基本戦略」の改訂では、新たな目標・基準を設定したかに見えるが、水素の供給目標は2040年の中間目標値を示すに留まり、水素の供給コストは据え置き、低炭素水素への移行では暗にブルー水素を許容した。日本は水素で世界をリードしてきたが、その面影は薄れた。

 改訂では、水素はアンモニアや合成メタン(e-methane)・合成燃料(e-fuel)等の様々な燃料の原料として使われるため、「水素基本戦略」「水素社会」等の“水素”には、これらの燃料なども含めた意味で記載するとした。対象を増やすことで、目指す究極の水素社会が見えにくくなった

安定的な水素の供給目標

 水素・アンモニア社会の実現を加速するため、従来から、2030 年に最大 300 万トン/年、2050 年に 2000 万トン/年の導入目標を掲げてきたが、新たに 2040 年における水素導入目標(アンモニアを含む)を 1,200 万トン/年として掲げ、適切な時期に見直しを行う。(中間目標の設定では?)

水素供給コストの低減

 従来、水素供給コスト(CIF コスト)は、2030 年に 30 円/Nm3(約 334 円/kg)、2050 年に 20円/Nm3(約 222 円/kg、水素発電コストをガス火力以下)、アンモニア供給コスト(CIF コスト)は、2030 年に水素換算で 10 円台後半/Nm3 の目標値を掲げてきた。
 2023 年3月の LNG 価格を水素供給コストに換算すると 24 円/Nm3 となり、水素供給コストは近年の化石燃料価格と同等の目標値である。そのため当該供給コスト目標は変えない

低炭素水素への移行

 水素・アンモニアの炭素集約度(Carbon Intensity)の目標について、International Partnership for Hydrogen and Fuel Cells in the Economy(IPHE)が国際標準となり得る算定方法論を提示しているとし、日本もこの算定方法に則り国際的に遜色ない低炭素目標を掲げる。
 すなわち、1kg の水素製造(Well to Production Gate)での CO2排出量が 3.4kg-CO2e 以下を、低炭素水素(クリーン水素)と設定。水素を原料として1kg のアンモニア製造( Gate to Gate(水素製造を含む))の CO2排出量が 0.84kg-CO2e/kg-NH3 以下を、低炭素アンモニアと設定する。

 以上の目標・基準の実現に向け、政府は供給面・需要面、制度整備、地方自治体との連携、革新的な技術開発、国際連携などの視点から、国内/国際水素サプライチェーンの構築発電、燃料電池、熱・原料利用の各分野における水素の需要拡の方向性を示した。

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