写真1に示すのは、山梨県大月市の相模川上流の桂川に架かる甲斐の猿橋です。日本三奇橋の一つといわれ、西暦600年頃に百済の帰化人である志羅呼が猿の瀬渡りに着想を得て架橋したという伝説が残されており、昔は吊橋であった可能性もあります。
現在は、全長30.9m、幅3.3m、水面からの高さは30mと高く、桂川両岸から橋桁を刎ね出した木造の刎橋で、桔橋とも記されており、現存する国内唯一の美麗な刎橋です。正確な架橋年は不明ですが、古くは延宝4年(1676年)に修理架橋を行った記録が残されています。
図1は、猿橋の断面構造図です。両岸を掘り込み、一辺が60cmの角材である刎木(2列4層)の一端を土中に埋め込み、空中に徐々に迫り出させた上に橋桁を載せた構造で片持梁橋です。しかし、一の桔木は枠柱で支えられており完全な片持梁橋ではないようです。
現在の橋は1984年に架け替えが行われ、江戸時代嘉永年間の原姿への復元を目指したものです。使用された主材料は台湾檜で、桔木部は耐久性を増すためにH型鋼の外側を台湾檜で覆い、土中空隙部にはモルタルが注入されています。
構造材料には、弾性率の高い欅が一の桔木に、水に強く固い栗が橋床に使用されています。また、側面に張出した桁端には、腐食防止を目的に小屋根が取付けられており、材木端部からの雨水侵入には随分気を使った様子が伺えます。
1842年(天保12年)、江戸の浮世絵師である歌川広重は甲府を訪れ、この旅の途中で猿橋周辺の景観をスケッチして旅日記に残しました。「甲陽猿橋之図」は、江戸に戻った広重がスケッチと記憶をもとに構成して描いた浮世絵です。猿橋を見上げる斬新な構図で、広重の最高傑作ともいわれています。
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