鉄鋼業界は国内産業界で最も多くのCO2を排出しており、遅ればせながら脱炭素化に向け「グリーンスチール」の商品化を加速している。
中でも、神戸製鋼は低CO2高炉鋼材”Kobenable Steel”を他社に先駆けて商品化し、低炭素Al合金板材も含めて日産自動車に供給を開始した。2023年春を目指して新型EVの「セレナe-POWER」、「アリア」や、中型SUVの新型「エクストレイル」などへの適用が進められている。
鉄鋼業界のカーボンニュートラル
欧州
戦略:
■電炉+直接還元製鉄/水素直接還元製鉄 ➡ 主流、天然ガスから水素への転換を計画
■高炉(転炉)+CCUS(CO2の回収・再利用・貯留)➡ 2020年以降の新規計画はない
■電炉(スクラップ利用)➡ 実用炉の建設Pjが発表
再生可能エネルギー導入が進み、自動車メーカーからの要請を受け、鉄鋼業界はグリーンスチール生産に動き出した。ドイツSalzgitterはウィンドファームを建設、Tata Steel Europeは電炉+水素直接還元製鉄を選択して高炉+CCUSは保留、ドイツThyssenkruppは直接還元製鉄への大型投資を発表。
米国の戦略
戦略:
■電炉(スクラップ利用)➡ 高級鋼の製造
■溶融酸化物電気分解法(MOE:Molten oxide electrolysis)➡ スタートアップBoston Metal
USスチールは300万トン/年の電炉・鋼板工場を新設予定。最大90%のスクラップ鉄を利用した高張力鋼の生産でCO2排出量の75%削減を実現した。また、MOEによる製鉄では、酸化鉄を直接電気分解することで鉄鉱石中の酸素を除去し、鉄鉱石から直接粗鋼を取り出すことで注目を集めている。
アジアの戦略
戦略:
■韓国:流動層還元法をベースとした水素還元製鉄
■中国:酸素高炉、ミニ高炉(水素還元)、電炉拡大などを検討中
韓国POSCOは2007年に開発した流動層還元法をベースに、2030年に向け水素還元技術HyREXを開発中である。中国大手鉄鋼メーカーは熱風に代り純酸素を吹き込むことで石炭使用量を減らす酸素高炉を検討中、またミニ高炉による水素還元製鉄の研究を進めている。
出典:星野岳穂:カーボンニュートラル実現に向けた鉄鋼業の取り組みと課題、2023年3月29日
日本の鉄鋼メーカーの動向
日本の産業部門におけるCO2の総排出量は2.8億トン(2019年)にのぼり、その内訳は鉄鋼1.3億トン(48%)、化学0.6億トン(20%)、窯業他0.2億トン(9%)、紙パルプ0.2億トン(6%)、機械0.1億トン(4%)、その他0.4億トン(14%)である。鉄鋼業界は最も多くのCO2を排出している。
日本はカーボンニュートラルに向けた戦略として、欧州で保留となったプロセス「高炉(転炉)+CCUS」を追求し、2013年にNEDO事業「環境調和型製鉄プロセス技術開発」で開始し、2016年にパイロットプラントが完成した。世界のトレンドが水素直接還元製鉄に向いており、見直す必要はないか?
神戸製鋼所
2022年5月、従来の高炉工程で発生するCO2排出量を大幅に削減した低CO2高炉鋼材“Kobenable Steel(コベナブルスチール)”を国内で初めて商品化した。使用する鉄鉱石の一部を還元済みの熱間成形還元鉄(HBI)に置き換え、同社加古川製鉄所の高炉に多量装入して製造する。
従来の高炉法に比べて製鉄工程でのCO2排出量を20~40%抑制でき、2種類の低CO2高炉鋼材の販売を開始している。「マスバランス方式」適用により、英国の第三者機関から「CO2排出量100%削減」の認定を受けている。
低CO2高炉鋼材“Kobenable Steel”の製造:
■天然ガス(主にCH4)を還元材とし、粉鉱石を加工したペレットを使ってシャフト炉で還元鉄を製造し、ミドレックス技術により高温の還元鉄を運搬に適する大きさの熱間成形還元鉄(HBI:Hot Briquetted Iron)にして高炉へ移送する。
■鉄鉱石の一部を既に還元済みのHBIに置き換え、従来、高炉で使用するコークス量を減らし、CO2排出量を削減する。販売にあたっては、全体でのCO2削減効果を特定の鋼材に割り当てる「マスバランス方式」を採用する。
また、低炭素アルミニウム(Al)合金板材は、原料鉱石(ボーキサイト)からAl地金を造る「電解精錬工程」に太陽光発電の電力のみを使用する。これにより、Al地金製造時のCO2排出量を従来比で約50%削減する。また、製造現場で発生したリサイクル原料も活用し、CO2 排出量を削減する。
低炭素アルミニウム合金板材の製造:
■太陽光発電によるAl地金の生産は、アラブ首長国連邦(UAE)のEmirates Global Aluminium(EGA)が担当し、同社が生産した地金を伊藤忠商事が神戸製鋼に供給する。伊藤忠から調達したAl地金を用いて、神戸製鋼の真岡製造所でAl合金板材を生産する。
JFEスチール
2022年10月、CO2排出量を減らし実質ゼロにする「グリーン鋼材」を、早ければ2023年度から販売すると公表した。第三者機関からの認証を得たうえで、販売にあたっては全体でのCO2削減効果を特定の鋼材に割り当てる「マスバランス方式」を採用する。
2030年度時点で500万トン/年のグリーン鋼材を販売する計画で、2027年度にも岡山県の高炉1基を電炉に転換する方向で検討しており、電炉の活用などを通じてCO2排出量を削減していく。販売価格は通常の鋼材よりも高くなる見通しである。
日本製鉄
2022年5月、CO2排出量が実質ゼロの「カーボンニュートラルスチール」を2023年度から販売すると公表した。2022年度下期以降に商業運転を開始する瀬戸内製鉄所広畑地区に新設した電炉で、グリーン電力を使って生産する。生産量は70トン/年で、主に電磁鋼板と自動車用鋼板を製造する。
最高級の電磁鋼板を電炉で造るのは世界で初めての試みとなるが、低コスト化には原発の再稼働が必要としている。また、高炉で生産する鉄鋼は水素還元製鉄により炭素の使用量を減らせても、ゼロにはできないため、CCUS(CO2の回収・再利用・貯留)導入が必須としている。
自動車メーカーの動向
日産自動車
2022年12月、国内で生産する新型車に、神戸製鋼所が開発した低炭素鋼材と低炭素アルミニウム(Al)合金板材を採用すると公表した。自動車部品を製造する工程でのCO2排出量削減が狙いである。
低炭素鋼材は、2023年春に発売予定の中型ミニバンの新型「セレナe-POWER」から採用し、順次採用車種を増やす。適用部位は、鋼材をプレス成形して造るボディー骨格部品である。
低炭素Al合金板材は、新型EV「アリア」や中型SUV(多目的スポーツ車)の新型「エクストレイル」から採用し、順次採用車種を増やす。採用時期は2023年春以降で、適用部位はフロントフードやドアの外板などになる。
メルセデスベンツ(Mercedes-Benz)
2021年5月、スウェーデンのH2グリーンスチール(H2 Green Steel)と提携を結び、自動車生産にCO2を含まない鋼材(グリーンスチール)の使用を2025年から開始すると公表した。「Ambition 2039」目標の一環で、EUが求めるよりも11年早い2039年にCO2ニュートラル達成を目指している。
2020年に創業したH2グリーンスチールは、鉄鋼生産において石炭(コークス)の代わりに水力、風力など再生可能エネルギー由来のグリーン水素と電力を使用する水素還元製鉄を進めている。鋼材生産過程で排出するCO2を最大95%削減できるとしている。
BMW
2022年2月、ドイツの鉄鋼メーカーであるザルツギッター(Salzgitter)と、2026年からグリーンスチールを調達する契約の締結を発表した。
ザルツギッターは、石炭(コークス)の代わりに水素を使って鉄鉱石を還元する水素還元製鉄や、電力に再生可能エネルギーを用いるなどして、CO2排出量を95%削減する。
他に2025年より、スウェーデンのH2グリーンスチールとも調達契約を結んでおり、欧州工場での鋼材使用量の40%以上をグリーンスチールに切り替え、40万トン/年のCO2削減を目指している。
ドイツの大手自動車部品メーカーのシェフラー
2025年以降、H2グリーンスチールから10万トン/年のグリーンスチールを調達する予定で、20万トン/年のCO2削減を目指す。また、2025年までには自社工場の75%、2030年までに自社工場のすべてについて、実質的な温室効果ガス排出量をゼロにすることを目標に掲げている。
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