国内で高いポテンシャルを有する風力発電であるが、肝心の風力発電機メーカー(三菱重工業、日立製作所など)が撤退し、安価な中国製風車の導入が現実のものとなってきた。
日本は2030年までに総出力:1000万kWの目標を掲げるが、海外メーカーの風車が占める割合は高いレベルで推移することは間違いない。日本に残された道は、導入された風力発電設備のメンテナンスと部品供給なのか?エネルギーセキュリティーの上で重大な問題を生み出す可能性がある。
迫る中国製風車の脅威
2022年6月、世界風力会議(GWEC)によると、2021年に導入された洋上風力の発電設備容量は2110.6万kWと2020年比で約3倍に急増し、累積導入量は5717.6万kWに達した。
注目されるのは欧州の2021年の導入設備容量は2020年比で13%増の331.7万kWであるのに対し、中国は2020年比で4倍超の1690万kWと激増した点である。すなわち、2021年の洋上風力の発電設備容量は中国だけで世界全体の8割を占めるほどに急増した。
調査会社ブルームバーグNEFによると、2021年の洋上風車メーカーのシェアでは中国勢が1~4位を独占した。4社の合計シェアは73.5%で、洋上風力の全発電設備容量の約3/4を占めたのである。
首位は2006年設立の上海電気風電集団で、1250kW~8000kW超の風車を製造する。第2位の明陽風電集団(Mingyang)は、2021年に浮体式洋上風力(出力:5500kW)を広東省陽江市で稼働させた。第3位の金風科技(Goldwind)は、陸上風力を合せると世界首位である。
中国の洋上風力プロジェクトは、主に沿海部の江蘇省、福建省、広東省、浙江省などで稼働を始めている。中でも江蘇省は、中国の全設備容量の約7割が集中している。
一方で、スウェーデンのヴェスタスは5位、2017~2020年に首位であったスペインのシーメンス・ガメサは6位と大きく後退した。
中国市場における洋上風力急増の理由:
■2014年に中国政府が打ち出した固定価格買取制度による優遇(0.85元/kWh(約13.8円/kWh)について、2018年末までに承認された洋上風力発電所は2021年末までに送電線に接続しなければ承認時の売電価格を認めない通知が出され、事業者が一斉に建設に動いた。
■中国では洋上風力の大型化が進み、国内初の知的財産権をもつ出力:8000kWの洋上風力の設置に成功し、1万kW洋上風力用ブレードも量産段階に入った。また、国内初のスマート洋上風力発電所が江蘇省で稼働するなど、技術レベルが著しく向上した。
中国政府はすでに2019年から風力発電への補助金の縮小を始めており、2021年は陸上風力の新設プロジェクトへの補助金が打ち切られ、洋上風力は補助金が支給される最終年となった。地方政府の補助も採算性などを勘案して支給が判断される。残念ながら、日本市場は未だそのレベルに達していない。
2022年も洋上風力市場は拡大傾向にあり、GWECは中国を中心にアジアで出力:590万kW、欧州で280万kWの新規導入を予想している。資源価格の高騰で欧州勢の風車コストは上昇しており、中国勢の価格競争力は相対的に強まる。太陽光パネルと同じ轍を踏む恐れが、現実のものとなりつつある。
2022年2月、ウェンティ・ジャパンなどが富山県下新川郡入善町で進めている「入善町洋上風力発電事業計画」に、着床式で中国の明陽風電集団製3000kW風車(3基、総出力:9000kW)が採用と報じられた。電力はFITにより全量を北陸電力に売電する。
同事業のEPC(設計・調達・建設)を担当する清水建設が、巨大化が進む欧米製より出力サイズが適切であるため明陽風電への発注を決め、早ければ2023年の稼働を目指すとしている。
洋上風力の設置関連事業
一方、洋上風力発電は海洋における風車の設置関連の新事業を生み出した。そのため建設会社を中心に動き出したが、既に先行する欧米や安値攻勢の中国も洋上風力の設置関連事業は手掛けており、今後、低コスト化を目指した厳しい競争が想定され、国内企業の踏ん張りに期待したい。
五洋建設、鹿島建設、寄神建設
2016年7月、五洋建設が洋上風力発電機の設置に用いる自己昇降式作業台船(SEP:Self Elevating Platform)の建造を発表した。世界のSEP型洋上風力発電施設設置船の70%以上を手掛けるオランダのGustoMSCが基本設計を行い、ジャパン マリンユナイテッドが建造する。
2019年に完成したSEP船「CP-8001」は800トン吊全旋回式クレーンを搭載し、作業時には4本の脚を海底に着床させ、船体をジャッキアップさせて波浪に左右されない作業条件を確保する。大型海洋構造物の設置や、定格出力:5000~6000kW級の風車設置、風車基礎の施工が可能である。
2019年11月、五洋建設、鹿島建設、寄神建設は1600トン吊全旋回式クレーンを搭載し、1~1.2万kWの洋上風力を効率的に建設できるSEP船「CP-16001」を共同で建造すると発表した。
2021年4月、五洋建設はベルギーのDEME Offshore Holding NVとの合弁会社の設立を発表した。DEMEは、基礎の建設から風車の据付、海底電力ケーブルの敷設、運転後のメンテナンスまで洋上風力の建設に関わる豊富なノウハウと最新の技術を保有し、2200基の洋上風力の据付実績を共有する。
また、洋上風力の建設に欠かせない400~1500トン吊大型クレーンを搭載した7隻のSEP船をはじめ、ケーブル敷設やメンテナンスなどのための作業船を数多く保有している。
大林組と東亜建設工業
2018年9月、大林組と東亜建設工業がSEP船の建造を決定した。ジャパンマリンユナイテッドが基本設計から建造までを行う。800トン吊全旋回式クレーンを搭載し、定格出力:5000~9500kW級の着床式洋上風力発電設備の組み立てが可能で、大型洋上風力発電設備を最大3台まで搭載可能である。
2019年11月、大林組が洋上風力の設置技術を確立したと発表。着床式では大型打設機を使わないでスカートサクション(円筒形コンクリート)を海底地盤中へ設置する。浮体式ではスカートサクションをアンカーとしてコンクリート製浮体を緊張係留するテンションレグプラットフォーム型 を開発した。
2021年3月、大林組はスペインのシーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジーと「秋田県北部洋上風力発電事業」での連携協定を締結したことを発表した。
2021年8月、大林組は開発した洋上風車基礎「スカートサクション」(高さ35.7m、スカート径12m)試験体を実海域波浪条件下に設置し、2020年5月~2021年5月の検証を行った結果、十分な支持性能と環境への好影響を確認できたと発表した。
大成建設
2019年10月、大成建設は浮体式洋上風力向けのコンクリート製浮体基礎の開発を手掛けるフランスのイデオルと国内事業化について覚書を締結した。
イデオルには安定性に優れた方形リング形状の浮体「ダンピングプール」に関する特許を取得しており、フランスと日本で2基の浮体式風力発電プロジェクトに参画している。
清水建設
2019年7月、清水建設は世界最大級の搭載能力及びクレーン能力を備えた高効率の自航式SEP船の建設を発表している。欧州のGustoMSCが基本設計、建造はジャパンマリンユナイテッドが行う。
SEP船は最大揚重能力2500トンのクレーンを搭載し、最高揚重高さ158mで、水深10~65mの海域で作業ができる。8000kW級風車なら7基分を一度に搭載可能で据付には10日間を要する。1.2万kW級風車なら3基分を一度に搭載可能で据付には5間を要する。
2020年1月、清水建設はJERAと、洋上風力発電事業の協働に関する覚書を締結した。
2021年5月、清水建設は子会社のエスシー・マシーナリ、IHI運搬機械と共同で、超大型の陸上風力発電施設の建設に対応できる移動型タワークレーン「S-Movable Towercran」の設計・製作に着手した。
最大揚重能力は145トン 陸上では最大となる高さ150m、5000kW級の大型施設の建設が可能で、最大作業高さは152m、半径12.5mである。
JFEエンジニアリング
2021年7月、JFEエンジニアリングは、洋上風力発電設備の着床式基礎(モノパイル式)の新工場をJFEスチール西日本製鉄所(福山地区)の敷地内に設置すると発表した。
モノパイル式基礎は、支柱としてのモノパイルと風車タワーとの接続のためのトランジションピースで構成され、国内既存工場では製造が困難な大きさである。生産能力は、モノパイル工場は8~10万トン/年、トランジションピース組立工場は50本/年で、生産開始は2024年4月である。
日本に残された道は?
国内で高いポテンシャルを有する風力発電であるが、有力な風力発電機メーカー(三菱重工業、日立製作所など)が撤退し、安価な中国製風力発電機の導入が現実のものとなってきた。
日本は2030年までに総出力:1000万kWの目標を掲げるが、海外メーカーが占める割合は高いレベルで推移することは間違いない。エネルギーセキュリティーの上で重大な問題である。
日本に残された道は、導入された風力発電設備のメンテナンスと部品供給なのか?
NEDOプロジェクトでは、風車の振動を感知するセンサーを使った遠隔監視や、設備のメンテナンス時期や部品の交換時期を予測するスマートメンテナンス技術の開発を進めている。
また、風力発電のメンテナンス作業の人材育成するため、育成プログラムの整備と合わせて日本風力発電協会がメンテナンス能力を評価する資格認証制度を検討している。
政府は風力発電の普及に向けて多額の投資(補助金など)を行ったにも関わらず、事業化の段階では企業の自由競争に任せるスタンスを取った。その結果、先行する欧米に技術力で負けた国内の風力発電機メーカーが事業から撤退し、気が付けば安価な中国製風車の導入が現実のものとなっている。
今後、風力発電の普及は進むであろうが、国内産業の育成・発展への寄与は残念ながら大きいとは言い難い。明らかに日本の技術力が落ちているのである。どこで、戦略を間違えたのであろうか?またしても、太陽光パネルと同じ轍を踏んでしまったことの反省をする必要がある。
ところで、気象条件で出力が大きく変化する風力発電や太陽光発電を系統連系するには、その出力変動を平準化するために負荷変動対応に優れたコンバインドサイクル発電や揚水発電などのバックアップ電源の整備、あるいは高価な蓄電池に頼らない大規模な電力貯蔵システムの設置が重要である。
さらに大規模風力発電(ウィンドファーム)に適した立地が豊富な北海道、東北から電力需要の多い本州都市部への送電容量の増強は必須である。このような大規模電力貯蔵システムの拡大と送電網強化は、風力発電導入拡大の鍵と気づくべきで、これが打つべき次の一手であることは間違いない。
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