一昨年末(2021年11月)、日産自動車は、今後5年間で約2兆円を投資し、電動化を加速する長期ビジョンの「Nissan Ambition 2030」を発表した。2023年2月には、この電動化戦略をさらに加速する取り組みを発表した。
トヨタ自動車の基本方針である「全方位戦略」とは360度異なり、EVシフトを明確に意識した顧客目線での戦略である。日産、ルノー、三菱自動車の3社によるアライアンスはEV集中である。
長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」
2021年11月、日産自動車は、今後5年間で約2兆円を投資し、電動化を加速する長期ビジョンである「Nissan Ambition 2030」を発表した。2030年代初めに主要市場である日米欧中において、新車全てをシリーズハイブリッドシステム「e-POWER」もしくはBEV(電気自動車)とする計画である。
その骨子は、次に示す6項目。
①2030年度までに15車種のBEVを含む23車種の電動車を導入
これにより、全世界での電動車の販売比率を50%以上とする。目標達成に向けて、2026年度までにBEVとHEVを合わせて20車種導入し、主要市場における電動車の販売比率を次のレベルに向上させる。欧州: 75%以上、日本: 55%以上、中国: 40%以上、米国: 2030年度までにBEV40%以上
②EVの台数増加に対応したグローバルな蓄電池供給体制を確立
パートナー(エンビジョンAESC)と協力し、全世界での電池生産能力を2026年度までに52GWh、2030年度までに130GWhへ引き上げる。また、リチウムイオン電池の技術をさらに進化させ、コバルトフリー技術の採用で、2028年度までに1kWhあたりのコストを現在と比べ65%削減する。
③4Rエナジーと築いたEV蓄電池のリユース/リサイクル技術を活用
蓄電池施設を日本以外にも拡大し、2022年度には欧州、2025年度には米国に新施設を設立する。蓄電池の二次利用を推進するためのインフラ整備を進め、エネルギーマネジメントにおける循環サイクルを構築し、2020年代半ばにV2X(Vehicle to X)と家庭用蓄電池システムの商品化を目指す。
④先進の運転支援技術や知能化技術の提供
2026年度までにプロパイロットを、ニッサン、インフィニティ両ブランド併せて250万台以上の販売を目指す。また、運転支援技術をさらに進化させ、2030年度までにほぼすべての新型車に高性能な次世代ライダー技術を搭載する。
⑤2028年度までに全固体電池(ASSB)搭載EVを市場投入
2024年度までに横浜工場内にパイロット生産ラインを導入し、蓄電池のコンパクト化、充電時間の短縮(1/3化)、冷却システムの簡易化、安全性向上を実現する。ASSBコストは2028年に75ドル/kWh、その後、EVとガソリン車の価格を同等レベルにするため65ドル/kWhまで下げる。
HEVやBEVのパワートレインは、ジヤトコと協力して主要部品の統合や軽量化・効率向上を進め、2026年度までに2019年度発売のリーフに比べて30%のコスト削減を目指す。
パワートレインのコンパクト化と重量エネルギー密度が2倍の全固体電池を組み合わせて、ピックアップトラックやSUVなどの大容量蓄電池搭載BEVで重量増加による走行距離低下を抑制し、軽自動車を含む小型車の走行距離向上に貢献する。
*現時点で、日産自動車では固体電解質を硫化物系のLGPS(リチウム・ゲルマニウム・リン・硫黄)を使用する方針であり、NASA(米国航空宇宙局)や国内外の大学との協力の中で、全固体電池の劣化防止に主眼を置いた研究開発を進めている。
⑥EVの生産と調達の現地化を推進
英国に設置したEV生産拠点「EV36Zero」のコンセプトを日中米にも拡大する。英国のように蓄電池の生産拠点を近くに設置して生産効率を向上する。また、再生可能エネルギーの活用も進める。
日産、ルノー、三菱自動車のアライアンス
2023年2月、ルノーグループ、日産自動車、三菱自動車は、3社のアライアンスをより高いレベルに引き上げる次の3つの取り組みを公表した。
①ラテンアメリカ、インド、欧州における新型車やEV投入など協業の推進
②ルノーグループ設立のBEV&ソフトウエア子会社「アンペア」に日産は最大15%を出資し、三菱自動車も参画を検討するなど、全固体電池や自動運転などの協業推進
③ルノーは日産の株式を43%、日産はルノー株を15%持っているが、資本見直しによる15%の相互保有に変更
*発表の背景に、日産側は出資比率の見直しによる対等な関係を望み、ルノー側はBEV新会社「アンペア」に日産の知的財産権や技術の導入を望んだことがある。
欧州は2030年でガソリン車の販売が禁止されるため、BEV「リーフ」で先行したものの、その後、後手に回っている日産は、ルノー・三菱自動車との3社連合により、急成長するBEV市場での巻き返しを図ることが急務である。
電動化戦略「Nissan Ambition 2030」の加速
2023年2月、日産自動車は電動化戦略「Nissan Ambition 2030」をさらに加速する取り組みを発表した。すなわち、きめ細かい市場分析に基づいて①BEV車種の見直し修正を行い、新たに⑦コネクテッドカーサービス戦略を加えている。
①2030年度までに19車種のBEVを含む27車種の電動車を導入
2030年までに投入する電動車両数を、従来のBEV15車種+HEV8車種からBEV19車種+HVE8車種にBEVを3車種増加した。これにより全世界での2030年における電動車の割合は従来の50%から55%以上に増加した。一方で、ガソリン車は2020年の45機種から、2030年には16機種まで減らす。
2026年度の電動車の販売比率は、各市場の電動車の普及状況に合わせて、目標に修正した。
●欧州:従来の75%(BEV50%+HEV25%)→98%(BEV78%+HEV20%)に引き上げ、2030年までにガソリン車販売が禁止される規制を反映
●日本:従来の55%(BEV10%+HEV45%)→58%(BEV15%+HEV43%)に引き上げ、軽BEV「サクラ」の国内での販売好調を反映
●中国:従来の40%(BEV15%+HEV25%)→35%(BEV23%+HEV12%)に引き下げ、2024年に専用BEVを投入するが現地メーカーとの競争が激化を反映
●米国:2030年度までにBEVのみで40%以上の目標は変更なし、当面は「インフレ抑制法」の対応で現地での生産・調達を強化
⑦顧客価値の創出を向上させるエンゲージメントの強化
日産はスマートフォンを活用したコネクテッドカーサービス戦略を強化し、車載コンテンツの充実からオンデマンド機能の実現まで、多様化する顧客ニーズに幅広く対応する。
日産の電動化戦略に一言!
世界のメガトレンドが電動化、特にBEVに向かっていることは衆目の一致するところである。BEV「リーフ」で先行したものの、現在では米国テスラ、中国の上海汽車、BYD、ドイツのフォルクスワーゲンに先を越されており、BEVに絞って如何に巻き返しを図るかが最大の課題である。
きめ細かい市場分析により、主要地域ごとに2026年度の電動車の販売比率を修正し、BEVで先行する欧州市場に注力する戦略は十分に評価できるが、肝心の技術の切り札が見えてこない。
ヒットした軽BEV「サクラ」も、中国の上海汽車、広西汽車集団に先行されて登板である。2023年3月、テスラが低価格の小型EVを数年内に投入するとの発表があり、今後、小型BEVの低コスト化競争が激化する。直近では、BEVのガソリン車並みへの低コスト化戦略を立てる必要がある。
2023年3月、BEVとe-POWERのパワートレインで、主要構成部品の共通化とモーター/インバーター/減速機/発電機/増速機の5部品をモジュール化を図り、2026年までにコスト30%減を目指しエンジン車と同等の車両コスト実現を発表した。ようやく、先行他社に追いついた感がある。
しかし、日産に最も期待されるのは、「⑤2028年度までに全固体電池(ASSB)搭載BEVを市場投入」である。加えて、「⑦コネクテッドカーサービス」である。いずれも、BEVの将来像を大きく変える可能性があるが、ルノー・三菱自動車との3社連合により加速される技術内容ではない。
また、全固体電池(ASSB)搭載BEVだから高価格ではシェア奪回は難しい。コストターゲットを明確にした蓄電池サプライチェーンの構築が急務であり、コネクテッドカーサービスの充実も含めて、早い段階での異業種連携を打ち出す必要がある。
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