世界の海上荷動量の拡大
世界の国内総生産(GDP)の成長率は、新型コロナウィルスの感染拡大により、2021年の5.7%から2022年に2.9%に急減速した。また、当初2022年はGDP成長率4.1%を予測していたが、世界銀行は2022年6月にロシアによるウクライナ侵攻の影響を考慮して、GDP成長率を2.9%に下方修正した。
このGDPの成長率は船舶による荷動き量と良い相関関係にあることが知られており、図1で示すように、中長期的には世界の海上荷動量は今後3~4%/年程度の拡大傾向にあると考えられている。このような国際海運を担う大型船舶は一般にC重油を燃料としており、1隻あたり年間数万トンのCO2を排出することから問題視されている。・国土交通省海事局海洋・環境政策課、2021年5月24日
国際海運におけるCO2削減目標
国連の専門機関である国際海事機関(IMO: International Maritime Organization)は、最終的な目標として、今世紀中のできる限り早い時期に国際海運からの温室効果ガス(GHG)の排出ゼロを掲げている。
マイルストーンとして、2030年に2008年比で全船舶を通じたCO2排出量40%以上削減、2050年に2008年比でCO2排出量を70%以上削減して2008年比でGHG排出総量を50%以上削減する目標を設定している。また、この目標は2023 年夏に改定することが合意されている。
・国土交通省、https://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji07_hh_000238.html
そこで、2021年12月、国土交通省はコンテナ船など国際海運に携わる船舶が排出する温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)を2050年までに実質ゼロにする新たな目標を、国連の専門機関である国際海事機関(IMO: International Maritime Organization)に提出した。
国際海運で排出される温室効果ガスは、IMOが一元的に対策を実施しており、国際海運からのCO2排出量は約7.0億トン(2018年)である。このCO2排出量は、図2で示すように世界全体の約2.1%を占めており、ドイツ一国の総排出量に匹敵する排出量であり対策が必要である。
・国土交通省海事局海洋・環境政策課、2021年5月24日
世界の船舶建造量の動向
1990年代まで、日本は船舶の建造量で世界シェアが50%を超えており、「造船王国」と呼ばれていた。その後、図3で示すように、低価格競争を展開する中国、韓国勢との競合に負け、リーマンショック後の2010年前後に新造船を大量に竣工したが、建造量は激減し、供給力過剰が続いている。
2020年時点の世界シェアは中国が40%、韓国が31%で、日本は22%に留まっている。造船業界の2020年の世界市場規模は1300億ドル、2025年に向けて平均5.7%/年の成長が見込まれている。
しかし、図4には2020年の造船業界の建造量を示すが、上位4社は中国、韓国勢で、日本は5位に今治造船(株)、6位にジャパンマリンユナイテッド(株)(JMU)に留まる。
今後、環境性能に優れた船舶が市場では選択されると考えられる。しかし、コンテナ船(自動車等を運搬)やタンカー(石油、LNG、LPG、化学品を運搬)などの貨物船分野では技術面で韓国が日本を上回り、液化天然ガス(LNG)を燃料とする船舶などの開発では日本の出遅れが目立つ。
そのため、次世代に向けたゼロエミッション船の開発をさらに加速する必要が求められている。
国際海運における保有船腹量
図5に示すように日本の国際海運企業の保有船腹量は世界の船腹量の11%を占め、世界第2位である。また、図6から日本郵船、商船三井、川崎汽船は船隊規模で世界10位以内に入り、IMOから温室効果ガス排出規制を直接に受けており、ゼロエミッション船開発を積極的に推進する必要がある。
ゼロエミッション船の開発動向
船舶用の代替燃料の普及に関しては、自動車や航空機に比べて順調に進められていないのが現状である。一般に船舶用燃料に使用されているのは低コストのC重油であり、代替燃料の低コスト化がネックとなり、港湾における代替燃料の供給インフラの整備が進まないことが大きな原因である。
一方で、環境規制の厳格化に伴う今後の船舶の技術開発に関して、欧州では船舶のエネルギー生産を調整・最適化できる蓄電池の標準搭載が鍵と考えられている。現状の技術レベルで実現可能なゼロエミッション船としては、電力推進船と燃料電池推進船が有望視されている。
現在、船舶用蓄電池を搭載している主な船種は、旅客船、オフショア船、作業船、および出力需要が変動する船種である。遠洋航行船舶は、その出力需要の大きさから蓄電池の搭載は一部のものに限定されているのが現状である。
また、欧州では燃料電池に関して幾つかの船舶用プロジェクトが進行中である。燃料電池技術自体は実用化されているが、舶用利用に関しては、更なる技術開発と承認プロセスが必要な状況である。
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