水素・アンモニア燃料船とは?(Ⅱ)

船舶

 水素燃料船の実現を目指して、日本では燃料電池推進船と水素燃焼タービン推進船、欧州では燃料電池推進船の開発、加えて液化水素燃料のサプライチェーン構築プロジェクトも鋭意進められている。
 水素燃料はCO2を排出しない脱炭素燃料であるが、供給体制など本格的な実用化に向けての課題は多く、加えて大きな燃料タンクが積載スペースを犠牲にする問題点がある。大型の水素燃料船の実用化には、水素燃料の低コスト化を進めるなど経済的な成立性がキーとなる。

水素燃料船

 水素燃料船の実現のためには、①水素燃料タンク、②水素燃料供給システム、③水素燃焼エンジンの開発と、④水素燃料のサプライチェーン構築が不可欠である。国内では、発電用の水素燃焼タービンや水素運搬船の開発で実績のある川崎重工業が、大型水素燃料船の開発で先行している。

水素燃料タンク

 小型船については、FCEVで実績にある高圧タンクによる水素貯蔵が経済的に優れていると考えられる。しかし、長距離運航が主体となる大型船では、液体水素貯蔵が主体になると考えられるが、極低温(-252.6℃以下)で貯蔵しなければならず高コストとなる。

 また、液体水素貯蔵でも重油の4.5倍の体積が必要となるため、貨物積載量への影響を最小限とするための船体構造設計や、タンク内で液体水素が気化して発生するBOG (boil off gas)による圧力変動管理の対策などが必要である。

水素燃料供給システム

 供給システムにおける水素リークや、構造材料(金属材料)の水素脆化などの問題への安全対策が重要である。加えて、港湾での水素燃料供給設備大型船向けship to ship方式の水素燃料供給船の開発などインフラ整備も不可欠であるが、現時点で国内の進捗は遅れている。

水素燃焼エンジン

 2020年9月、日本郵船、東芝エネルギーシステムズ、川崎重工業、日本海事協会、ENEOSの5社は、NEDO助成事業を受け、高出力燃料電池推進船の実用化に向けた実証事業を開始すると発表した。全長25m、幅8m、総トン数:150トン級(旅客定員100人程度)の中型観光船が対象である
 2021年から本船・供給設備の設計に着手、2023年から建造・製作を開始し、2024年に横浜港沿岸にて実証運航を開始する。燃料電池は、出力:約500kWクラスを搭載する計画である。また、水素の供給に至るまでのバリューチェーン全体を取り組みの対象としている。

 また、欧州の「HySHIP 」プロジェクトでは、欧州研究助成プログラム Horizon 2020 から800 万ユーロの資金援助を受け、貨物と液化水素コンテナの両方を輸送する液体水素燃料輸送 RORO 船を建造・運航する計画が進められている。
 2024 年に進水予定の実証船「Topeka」は燃料電池推進船(PEFC出力:3MW、蓄電池:1MW)で、ノルウェー西海岸に点在する海洋産業の拠点間を往来する大型トラックに代わる貨物輸送手段として定期運航する計画で、年間 25,000 台のトラック輸送を Topeka が担う計画である。

 一方、国内では、発電用の水素燃焼タービンや水素運搬船の開発で実績のある川崎重工業が、大型水素燃料船の開発でも先行している。

 2021年1月、川崎重工業が液体水素を使い水素燃焼タービンを動力源とする大型運搬船(全長:約300m、幅:約50m、総トン数:約13万トン)を、2026年度中に完成すると発表した。
 大型船の多くは重油を燃料とするディーゼルエンジンや蒸気タービンが主流であるが、水素を燃やして発生させた蒸気でタービンを回す独自方式を検討しており、最大で4基の液体水素タンク(水素運搬容積:40000m3)を搭載する計画で、建造費は約600億円である。

 また、2021年4月、川崎重工業、ヤンマーパワーテクノロジー、ジャパンエンジンコーポレーションの3社はコンソーシアムを結成し、外航・内航大型船向けの舶用水素燃料エンジンを共同開発する。
 基礎燃焼解析、素材、シール技術開発、船級規則対応などの共通技術要素で連携し、川崎重工業が中速4サイクルエンジン、ヤンマーパワーテクノロジーが中・高速4サイクルエンジン、ジャパンエンジンコーポレーションが低速2サイクルエンジンの開発を進め、2025年頃の市場投入を目指す。

 2022年5月、川崎重工業は舶用水素ボイラの基本設計を完了した。波の揺動や設置スペースの制限が伴う船舶特有の条件や運用面などを考慮した設計で、このボイラを搭載した液体水素運搬船の推進システムは、日本海事協会から設計承認(AiP:Approval in Principle)を取得している。
 開発されたボイラは蒸気タービンや燃料供給システムと組み合わせ、2020年代半ばに計画している大型液体水素運搬船に二元燃料推進システムとして搭載される。

 2022年11月、川崎重工業は、水素燃料を使う船舶向け発電用エンジンの基本設計を完了し、日本海事協会からAiPを取得した。液化水素の運搬中に外気の熱で船内のタンクが温められて気化するBOGを主な燃料とし、着火に必要な低硫黄の重油と混ぜて燃やすことで発電(出力:240kW)する。 

水素燃料のサプライチェーンチェーン構築

 水素燃料船の実現のためには、水素燃料のサプライチェーンチェーン構築が重要であり、キーとなる水素燃料運搬船の開発が進められている。

 2013年9月、川崎重工業は小型の液体水素輸送船(運搬容積:2500m3)を世界で初めて2隻造り、2020年にオーストラリア・ビクトリア州ラトロブバレーから液体水素輸入の実証試験を開始した。
 ロイヤン発電所炭田から産出される褐炭のガス化時に、CO2回収・貯留装置(CCS)によりCO2フリーの液体水素を現地製造し、液体水素(-253℃)を専用船で日本に輸送した。

 2016年2月、技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)を設立し、岩谷産業(液体水素荷役)、川崎重工業(液体水素運搬船、貯蔵・液化・積荷設備)、シェルジャパン(液体水素運搬)、電源開発(褐炭ガス化)、丸紅(サプライチェーン)が、取り組みを開始した。

 液体水素は不純物除去の手間が不要で輸送後にすぐ使える利点がある。しかし、比重が0.07g/mm3と軽く、沸点が-253℃と極低温のため、LNG(比重:0.424 g/mm3、沸点:-162℃)に比べ、安全性や断熱性についてより高度の技術が必要となる。

 2019年12月に進水式が行われた世界初の液体水素燃料運搬船「すいそ ふろんてぃあ」は全長116m、長さ109m、幅19m、深さ10.6m、総トン数:約8000トンで、日本海事協会から基本認証を得ており、容積:約1250m3の真空断熱二重殻構造の液化水素タンクを搭載している。

図4 液体水素燃料運搬船「すいそ ふろんてぃあ」

 2021年12月、「すいそ ふろんてぃあ」は神戸港を出航し、オーストラリア・ビクトリア州のプラントで低品位の褐炭をガス化・精製して液体水素を積み込んだ。
 その後、2022年2月に神戸港に帰港し、水素荷役施設「Hytouch神戸」に陸揚げし、ローディングアームシステムで陸上の液体水素タンク(直径:19m、容積:2500m)に充填された。

 2022年4月には、川崎重工業など7社で構成する技術研究組合(HySTRA)が、世界で初めて開発した液体水素燃料運搬船の実証に成功したことを発表している。

図5 船舶用液体水素燃料のサプライチェーン

 政府は2030年に300万トン/年の水素調達を目指している。大量運搬で水素のコスト低減を図り、現在約170円/Nm3(0℃、1気圧)の供給コストを2030年に30円/Nm3程度まで下げる計画である。
 そのため、2030年までに大型液化水素運搬船(水素運搬容積:160000m3)を2隻造り、サプライチェーンの本格稼働を開始する計画である。また、2022年8月には、大型液化水素運搬船を受け入れる港湾を神戸港以外にも複数整備する調整に入ると公表した。

 一方、欧州でも液体水素燃料のサプライチェーン構築プロジェクトが進められている。2019 年末、ノルウェー政府は、同国電力会社 BKK、Equinor、フランス Air Liquide を中心とした海運用液体水素燃料サプライチェーン構築プロジェクトへ、380万ドルの助成金を決定した。
 ノルウェー西海岸のMongstad 産業パークに液体水素製造施設を建設し、2024 年から燃料供給を開始する。また、西海岸沿いのNorSea グループ・サービス拠点に、液体水素の貯蔵施設と燃料供給のターミナルを建設する。海運業の Wilhelmsenは、液体水素燃料運搬船「Topeka」の開発を進める。 

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