電動航空機の開発動向(Ⅲ)

航空機

 NASAは150人乗りクラス旅客機で、パラレル方式の「SUGAR Volt」シリーズ方式の「STRAC-ABL」の開発を進めている。また、将来を見据えてウィングボディ形状のターボ・エレクトリック分散推進方式(TeDP)の旅客機「N3-X」を発表している。
 JAXAもSOFC-ガスタービン複合サイクル発電機を搭載したシリーズ方式のエミッションフリー航空機を発表している。

ハイブリッド航空機(2)

NASA

 米国NASAは、航空機メーカーのボーイングと150人乗りクラスではパラレル方式の「SUGAR Volt」の開発を進めており、シリーズ方式では「STRAC-ABL(Single-aisle Turboelectric Aircraft with an After Boundary-Layer propulsor)」旅客機の開発を進めている。

図11 NASAが提案する境界層吸入ファン付き狭胴型旅客機 (STARC-ABL)

 STARC-ABLの開発には、ボーイング、ジョージア工科大学、リバティー・ワークスなどが参画しており、オハイオ州クリーブランドのNASA グレン研究所では、両翼に取付ける低排気ガスの小型高バイパス比のファンエンジンと、尾部に取付けるBLIファンの研究を行っている。

 STARC-ABLはB737機とほぼ同サイズで、両翼の小型ジェットエンジンと発電機(総出力:2.8MW)で、尾部のBLIファン(出力:2.6MW)を駆動する。ジェットエンジンは離陸時に必要な推力の80 %を分担し、巡航時は66 %で巡航速度:962km/hである。BLIファンが残りの推力を分担する。

 現在の機体に比べて燃費は10 %程度節減できる。2017年6月末に「STARC-ABL」Rev. Bモデル案を完成し、2018年末までにRev. C案の検討を終了、2020年にRev. D案をまとめ、最終的には「STARC-ABL」を2035年頃に就航させる計画である。 

図12 NASAのハイブリッド航空機の実証機「STARC-ABL」Rev.Bモデル

 一方、NASA では将来を見据えたハイブリッド航空機として、胴体部や尾翼がなく、主翼のみで機体全体が構成されたウィングボディ形状のターボ・エレクトリック分散推進方式(TeDP:Turbo-electric Distributed Propulsion)の旅客機「N3-X」を発表している。

 翼端に配置したターボシャフト・エンジンで超電導発電機を回して発電し、翼胴後縁上面に配置した超電導モーター駆動の多数の小型ファンを回す。ファンは低圧力比(1.5:1)で推進効率が高く、また翼胴上面の境界層を吸い込み揚抗比を大きくして、燃費と騒音を改善する計画である。

図13 NASAが提案するターボ・エレクトリック分散推進方式
の旅客機「N3-X」

JAXA

 日本のJAXAは、中大型旅客機を対象にエミッションフリー航空機を提案している。推進系はジェットエンジンと燃料電池、発電機、蓄電池、超電導モーターを組み合わせたシリーズ方式である。2基のジェットエンジンで発電した電気で、ウィングボディの後端に並べた10基のBLIファンを駆動させる。 

 電動ハイブリッド推進システムは、固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)とガスタービンのハイブリッド発電機と分散電動ファンを組合せたもので、現在のジェット旅客機に比べて燃費を50%以上削減できるとし、2030~50年代の実用化を目指している。

 現時点で水素燃料には限定していないが、水素を利用する場合の燃料タンクや周辺構成についても検討が進められ、水素燃料の極低温特性を利用した超電導発電機/モーターも含まれている。

図14 JAXAのエミッションフリー航空機の構想
出典:JAXA、ÉCLAIRコンソーシアム

超伝導モーター

 2022年10月、東芝は展示会「CEATEC 2022」で、中小型旅客機用ジェットエンジンを代替できる出力:2MW級の超電導モーター(ドラム部分の長さ:70cm、直径:50cm)の実物大模型を出展した。
 超電導モーターは、磁界を発生させるコイルに、極低温に冷却すると電気抵抗値がゼロになる超電導線材を使うことで、より少ない巻き数のコイルでも強い磁界を発生させることができるため、高速回転かつ高出力を実現すると同時に、体積と重量をそれぞれ1/10以下と大幅な小型軽量化が可能である。

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