常態化する再エネ制御とその対策(Ⅵ)

再エネ

 太陽光発電と風力発電での実証試験により大容量蓄電設備導入の有用性が確認された結果、北海道エリアから「蓄電設備併設太陽光発電所」の設置が始まったが、民間企業主体で蓄電設備が高コストのために拡大は限定的である。
 一方、太陽光発電に比べてより大規模となる風力発電所に関しては、「再エネ電源併設型」「需要地点併設型」の両方の蓄電設備(一部は蓄エネルギー設備)の実証試験が始まっている。

太陽光発電所と風力発電所の動き

蓄電設備併設型太陽光発電所の設置

 実証試験により大容量蓄電設備導入の有用性が確認された結果、北海道エリアから蓄電設備併設太陽光発電所」の設置が始まったが、民間企業主体で蓄電設備が高コストのために拡大は限定的である。

●2017年4月、フージャースコーポレーションは、北海道沙流郡日高町に緩効性リチウムイオンキャパシター(出力:0.9万kW、容量:0.36万kWh)を併設した日高庫富太陽光発電所(出力:1.0204万kW)を開所した。
●2017年4月、東急不動産、三菱UFJリース、日本グリーン電力開発の共同出資で、北海道釧路郡釧路町にGSユアサ製コンテナ式リチウムイオン蓄電池システム(出力:1万kW、容量:0.675万kWh)併設のトリトウシ原野太陽光発電所(出力:1.45万kW)を開所した。
●2019年8月、オリックスとソーラーフロンティアは、北海道上磯郡知内町に東芝製リチウムイオン電池(出力:1.25万kW、容量:0.72万kWh)併設の知内メガソーラ20M発電所(出力:2.4万kW)を開所した。
●2022年10月、北海道八雲ソーラーパーク合同会社は、北海道二海郡八雲町に韓国のLG化学製リチウムイオン電池( 出力:5.25万MW、容量:2.7万MWh)を併設したソフトバンク八雲ソーラーパーク(出力:10.23万kW)を開所した。
●2023年1月、GSユアサは、栗東事業所に自社製の定置用蓄電設備付き太陽光発電設備(発電出力:2200kW、蓄電池容量:35.3kWh)を導入して稼働を開始した。国産太陽電池パネルを使用。
●2023年1月、中国電力は隠岐諸島において太陽光発電と⾵⼒発電(合計出力:約6500kW)を所有し、今後も3900kWを増加する⾒込みで、西ノ島変電所にハイブリッド蓄電池システム(NAS:4200kW、LIB:2000kW)の設置を進めている。
●2024年1月、日本ガイシがオムロン・フィールドエンジニアリングから受注し、福島県郡山市の東北アンリツ第二工場のメガソーラー(出力:1100kW)に納入した電力貯蔵用NAS電池(出力:400kW、容量:2400kWh)が運転を開始した。
●2024年4月、住友電工はレドックスフロー電池(出力:40kW、容量:160kWh)を大成建設系の成和リニューアルワークスに納入し、運用が開始された。埼玉県内に新設した太陽光発電設備向けで20年以上の耐久性があり、同施設内の再生可能エネルギー由来の電力比率は約60%になる。
●2025年1月、中国電力ネットワーク、島根県隠岐郡海士町、交交こもごもは、「離島等における再エネ主力化に向けた設備導入等支援事業」(環境省の補助事業)に取り組み、住友電工製レドックスフロー電池(出力:4,000kW 容量:1.25万kWh)が納入された。
●2025年2月、九電みらいエナジーは、長崎県大村市の「大村メガソーラー第4発電所」に蓄電池を設置。出力:約2000kW、容量:約7400kWhで、企業間で電気を売買する従来の「卸電力市場」に加え、電力需給の調整力を取引する「需給調整市場」も活用して、「マルチユース運用」で収益力の向上をめざす。
 現在は固定価格買取制度(FIT)の対象だが、市場価格で売電する発電事業者に一定の補助金を上乗せ分として支給する「FIP(フィードインプレミアム)」制度の利用に切り替える。

蓄電設備併設型風力発電所の開設

 大規模な再生可能エネルギー導入が計画されている北海道電力では、2013年に独自の系統接続条件として、特別高圧連系の接続量で40万kWを超えて新たに連系する変動性再生可能エネルギー発電所には、蓄電池設備を発電事業者が設置する出力変動緩和対策を義務付けた。

 しかし、再生可能エネルギーの安定化に使われている火力発電や揚水発電に比べて加えて、大型の蓄電設備の新規導入には多額の費用が必要となる。そのため、再エネ発電事業の採算性を悪化させるため、出力変動緩和要件は再エネ導入の阻害要因ともなっている。

 2017年3月、北海道電力は「蓄電池募集プロセス(系統側蓄電池による風力発電募集プロセス)」を推進し、大型蓄電設備の導入計画と共に、風力発電16.2万kWの連系を決定した。
 ユーラスエナジーHDやエコパワーなどの風力発電事業者から資金を集め、2022年4月に北海道電力の南早来変電所に需要地点併設型の大型蓄電装置(容量:1.7万kW×3h)を設置する計画である。これにより複数の再エネ発電事業者が蓄電設備を共用でき、事業者の負担は1/3以下に軽減される。 
 2020年7月、住友電気工業は、北海道電力ネットワークが進めている系統側蓄電池の活用による風力発電の連系拡大で、レドックスフロー電池設備(容量:1.7万kW×3h)を受注し、2020年度中に着工し、2022年3月末に完工された。

 2021年7月には風力発電43.8万kW分の公募と共に、大型蓄電装置(容量:7.8万kW×4h)の設置を発表した。その後、風力発電40万kW分の公募と、大型蓄電装置(容量:6万kW×4h)の設置を計画している。

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図8 完成したレドックスフロー蓄電池設備 出典:住友電工

 しかし、2022年2月時点での北海道電力の再生可能エネルギー接続量は、太陽光発電が214万kW(国内シェア15.9%)、風力発電が58万kW(同7.1%)に留まる。そのため資源エネルギー庁は、2023年7月以降に接続検討の受付を行う新規電源については、出力変動緩和要件を求めない方針を公表した。

 太陽光発電に比べてより大規模となる風力発電所に関しては、「再エネ電源併設型」「需要地点併設型」の両方の蓄電設備(一部は蓄エネルギー設備)の実証試験が行われている。  

●2013年10月、長崎県五島市椛島沖で浮体式洋上風力発電設備(定格出力:2000kW)の実証試験が開始され、2015年4月から水素電力貯蔵の実証試験が並行して進められた。余剰電力による水電解で発生させた水素をトルエンと反応させ、メチルシクロヘキサン(MCH)にしてタンクに貯蔵する。
●2019年4月、北海道松前町で東急不動産と日本風力開発が開発を進めていた蓄電池併設型の「リエネ松前風力発電所」の運転を開始。Siemens・Gamesa製の風車(定格出力:3400kWX12基)と、日本ガイシ製のNaS電池(容量:1.8万kW)により構成されている。北海道初の蓄電池併設型風力発電所である。
●2022年9月、北海道ガスはFIP制度を活用し、石狩LNG基地に隣接して「北ガス石狩風力発電所」の建設を発表。ENERCON製の風車(定格出力:2350kW×1基)と、蓄電池(容量:1,500kWh)を併設する。出力変動対策に、異なる連系点のガスエンジン発電所(12台、総出力:93,600kW)を調整電源とする。
●2023年4月、ユーラスエナジーなどが出資する北海道北部風力送電の「北豊富変電所」が商業運転を開始。GSユアサが世界最大規模のリチウムイオン蓄電池設備(出力:24万kW、容量:72万kWh)を納入。
 連系する127基(総出力:54万kW)の風力発電設備のうち、ユーラスエナジー分が6プロジェクトで合計107基(約45.7万kW)、川南ウインドファーム19基(8.17万kW)は5月に稼働した。
●2023年5月、北海道北部風力送電が事業主体で北海道稚内市・中川町に建設していた共用送変電設備が完成した。北海道北部に新設する127基の陸上風力発電設備(合計:54万kWh)を連系する共用送電線(78km、鉄塔269基)であり、定置型蓄電池を併設して出力を安定化させる。総事業費1050億円である。

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