国際エネルギー機関(IEA)では、電源構成のVRE比率が20%を超えると系統運用が不安定になり、大規模なエネルギー貯蔵設備が必要になると分析している。
日本のVRE比率は2023年時点で平均22.9%に達しており、地域によっては高い値を示している。そのため、再エネ制御により太陽光発電と風力発電の投資収益性が下がり、普及の阻害要因となっている。揚水発電のような大規模電力貯蔵システムや連系線を使った他地域への送電が不可欠となっている。
再エネ導入に向けた電力会社の動き
エネルギー貯蔵設備と連系線の活用
第7次エネルギー基本計画で掲げた2040年度の電源構成では、再生可能エネルギー比率40~50%を目標とし、そのうち太陽光発電は23~29%、風力発電は4~8%程度で、合計した変動性再生可能エネルギー(VRE:Variable Renewable Energy)比率は27~37%に達する。
国際エネルギー機関(IEA)では、電源構成のVRE比率が20%を超えると系統運用が不安定になり、大規模なエネルギー貯蔵設備が必要になると分析している。
日本のVRE比率は2023年時点で平均22.9%に達しており、地域によっては高い値を示している。そのため、再エネ制御により太陽光発電と風力発電の投資収益性が下がり、普及の阻害要因となっている。揚水発電のような大規模電力貯蔵システムや連系線を使った他地域への送電が不可欠となっている。
各電力会社の「太陽光+風力導入量」と「利用可能な揚水発電+連系線利用量」から、「出力比」を求めることができる。出力比は1.0に近いほど、太陽光・風力発電の電力を揚水発電や連系線利用により対応できるため再エネ制御は起きにくい。
東京電力は太陽光+風力導入量がダントツに多いが、揚水発電もダントツに多いため、出力比は0.6と高い。北海道電力と四国電力は連系線利用も期待できるため、出力比は0.61と0.59と高い。
一方、東北電力は揚水発電が少なく、連系線利用を含めても出力比は0.22に留まる。九州電力は太陽光+風力導入量が多く、揚水発電と連系線利用を含めても出力比は0.29に留まる。中部電力も太陽光+風力導入量が多く、揚水発電のみの対応で出力比は0.34に留まる。出力比の地域差は極めて大きい。

出典:資源エネルギー庁
蓄電設備導入のための実証事業
過去を振り返ると、大型蓄電設備導入に関しては多くの実証事業が行われてきた。
政府主導で、2006年9月~2011年3月までの5年間、北海道稚内市にメガソーラー実証研究施設(出力:5000kW)が設置され、「大規模電力供給用太陽光発電系統安定化実証研究」が行われた。
太陽光パネルで発電した電力をインバーターで420V(三相)に変換し、中間変圧器で6.6kVに昇圧した上で一部をNAS電池(出力:1500kW)に充電し、特高受変電設備を通じて北海道電力の系統に接続され、電圧変動抑制3%以下、長周期の出力変動幅の縮小率80%以上を目標とした実証試験が行われた。
また、数時間オーダーでのメガソーラーの出力制御技術の開発に向けて、日射量予測システムの構築およびNAS電池を用いた最適運転技術の開発も行なわれた。研究終了後、この再エネ電源併設型の設備はNEDOから稚内市が無償譲渡を受け、「稚内メガソーラー発電所」として稼働している。

その後、固定価格買取制度(FIT)で太陽光発電所が急増したため、電力会社では大容量蓄電池の導入による再生可能エネルギーの受け入れ可能量の検証を行うと共に、蓄電池の最適制御と管理手法の構築を目的として、以下の需要地点併設型実証事業が、国の全額補助で進められた。
●2015年2月、東北電力は、仙台市の西仙台変電所にリチウムイオン電池(出力:4万kW、容量:2万kWh)を設置し、「周波数変動対策蓄電池システム実証事業」を開始した。東芝製リチウムイオン電池が採用され、2017年度まで実証試験が行われた。
●2015年4月、九州電力は、福岡県豊前市の豊前蓄電池変電所に日本碍子製コンテナ型NAS電池(出力:5万kW、容量:30万kWh)を設置し、「大容量蓄電システム需給バランス改善実証事業」を開始した。2017年度まで実証試験が行われた。
●2015年12月、北海道電力は、勇払郡安平町の南早来変電所に住友電工製レドックスフロー電池(出力:1.5万kW、容量:6万kWh)を設置し、「平成24年度大型蓄電システム緊急実証事業」を開始した。ソフトバンク苫東安平ソーラーパーク(出力:11.1万kW)に隣接し、2019年1月まで実証試験が行われた。
●2016年2月、東北電力は、基幹系統変電所である福島県の南相馬変電所にリチウムイオン電池(出力:4万kW、容量:4万kWh)を設置し、「大容量蓄電システム需給バランス改善実証事業」を開始した。東芝製リチウムイオン電池が採用され、2016年度まで実証試験が行われた。
●2016年3月、九州電力は福岡県豊前市で「豊前蓄電池変電所」(出力:5万kW、定格容量:30万kWh)の運用を開始した。国の「大容量蓄電システム需給バランス改善実証事業」(2015~2016年度)を受託し、三菱電機が蓄電池システム全体のEPCサービスを担当し、日本ガイシ製のNAS電池を採用した。
その他、長崎・鹿児島の離島4島でも、蓄電池システム(容量:約1000kWh)を設置している。
以上の実証事業で設置された蓄電システムは、いずれも実証終了後に蓄電所として運営されている。
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