福島第一原発事故の経緯から、燃料被覆管には「高温水や水蒸気との酸化発熱反応が起き難い材料として水素発生速度を遅らせ、より耐熱性に優れた材料とする」こと、燃料自体にも「燃料中心温度の低下や、放射性物質の保持性能を向上させる」ことが、事故耐性燃料(ATF)の基本概念として提案された。
2018年、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)の軽水炉に関するATF専門家グループ(EGATFL)による会合(2014~2017年)で、ATF候補概念が検討され候補材料が示された。
軽水炉用の核燃料とATF概念について
PWRとBWRの燃料の違い
核分裂反応で発生する熱エネルギーを水(軽水)で取り出して発電するのが軽水炉である。国内では「沸騰水型軽水炉(BWR)」と「加圧水型軽水炉(PWR)」の2種類が稼働しており、それぞれ運転条件と水質環境が大きく異なる。
沸騰水型軽水炉(BWR)の運転条件は、圧力:8MPa、炉心温度:280℃である。原子炉圧力容器内で冷却水が直接に蒸気に変化されるため蒸気と高温水が混在する二相状態にあり、燃料棒は苛酷な「高温酸化雰囲気」にさらされる。
一方、加圧水型軽水炉(PWR)は、原子炉圧力容器内で一次冷却水の沸騰を抑えるため圧力:15MPa、炉心温度:350℃と高めである。しかし、高温水のみの単相状態にあり、通常、燃料棒は「高温還元雰囲気」にさらされる。同じ軽水炉でも炉心環境の過酷さには大きな違いがある点に注目する必要がある。
BWRとPWRの燃料棒は、二酸化ウラン(UO2)を1800℃で焼き固めた燃料ペレットを、ジルコニウム(Zr)に錫(Sn)や鉄(Fe)などを添加した合金であるジルカロイ(Zircalloy)製の燃料被覆管内に挿入されている。ただし、BWRでは蒸気と水の流れを整えるため、燃料集合体はチャンネルボックスで囲われている。
この「ジルカロイ製燃料被覆管」は、耐食性と耐熱性に優れ、十分な強度と延性を有している。実際に、軽水炉条件下での腐食試験や放射線照射試験が行われて耐性が確認され、核分裂に必要な熱中性子吸収断面積が小さいため経済性も良好であり、1970年代以降の軽水炉に適用されてきた。

事故耐性燃料(ATF)の基本概念
福島第一原発事故の経緯から、燃料被覆管には「高温水や水蒸気との酸化発熱反応が起き難い材料として水素発生速度を遅らせ、より耐熱性に優れた材料とする」こと、燃料自体にも「燃料中心温度の低下や、放射性物質の保持性能を向上させる」ことが、事故耐性燃料(ATF)の基本概念として提案された。
2018年、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)の軽水炉に関するATF専門家グループ(EGATFL)による会合(2014~2017年)で、ATF候補概念が検討され候補材料が示された。(State-of-the-Art Report on Light Water Reactor Accident Tolerant Fuels, NEA No.7317, © OECD 2018.)

「燃料被覆管」には、高温水蒸気への酸化耐性向上の観点から、①金属クロム(Cr)等でコーティングしたジルカロイ、②酸化物分散型の鉄(Fe)-クロム(Cr)-アルミニウム(Al)改良ステンレス鋼、③高融点金属のモリブデン(Mo)合金、④先進セラミックスのシリコンカーバード(SiC)/シリコンカーバイド(SiC)複合材料があげられた。
その理由は、①Crコーティング、②FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼、④シリコンカーバード(SiC)は、現行ジルカロイに比べ、高温水蒸気酸化の速度定数は2桁程度小さいためである。例えば、1200℃の速度定数は、SiO2<Al2O3<Cr2O3<ZrO2の順である。

出典:Terrani et al, JNM, 501 (2018) 13-30
「被覆管以外の非燃料部材」には、①BWR炉心ではSiCチャンネルボックスの採用、②過酷事故時の再臨界発生の可能性低減が期待できる「事故耐性制御棒」が、将来の実用化概念としてあげられた。
「燃料」については、現行燃料をベースに放射性物質の保持性能などを高めた①酸化物ドープ・ウラニア(UO2)、②高熱伝導度ウラニアや、実績は乏しいが燃料中心温度を下げ、放射性物質の保持性能を高める可能性から③高密度燃料、④被覆燃料があげられた。
また、2022年には、OECD/NEAによるのATFの専門家グループ(EGATFL)により、ATF設計への核燃料安全基準の適用可能性の検討結果が報告された。(Applicability of Nuclear Fuel Safety Criteria to Accident-Tolerant Fuel Designs, NEA No. 7576, OECD 2022.)
この報告書では、多数の先進的な燃料設計と被覆材料を調査した結果、配備される可能性が最も高い ATF概念として、燃料被覆管は「Crコーティング・ジルカロイ」、「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」、「SiC/SiC複合材料」、燃料ペレットは「酸化物ドープ・ウラニア」、「ケイ化ウラン(U3Si2)」への絞込みが示された。
また、既存の燃料設計、性能要件、核安全基準に大きな影響を及ぼさない「Crコーティング・ジルカロイ」と「酸化物ドープ・ウラニア」は短期的なATF概念とし、「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」、「SiC/SiC複合材料」、「ケイ化ウラン(U3Si2)」は、長期的なATF概念と位置付け、各ATF概念の評価結果を示している。

ただし、技術の準備レベルは1~9まであり、9は日常的な商業規模の運用と定義している。
報告書で示された新現象や課題:
■「Crコーティング・ジルカロイ」は、通常運転中に冷却材から被覆表面を通って基材に水素が拡散する可能性がある。事故条件下では界面でジルコニウム-クロム共晶反応が起こり、基材にクロムが拡散する可能性などがある。
■「FeCrAl(-ODS)改良ステンレス鋼」は、通常運転中にクロムを多く含む粒子の沈殿により脆化し、事故条件下では加熱速度が速いため酸化物が不安定になりやすい可能性などがある。
■「SiC/SiC複合材料」は、通常運転中に化学的適合性の問題や溶解が発生し、重大事故条件下ではメタンや一酸化炭素(CO)が発生する可能性がある。
■「酸化物ドープ・ウラニア」では、新しい現象は確認されなかったが、「ケイ化ウラン(U3Si2)」は水や蒸気と激しい発熱反応を示すことが明らかとなった。
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