火力発電に使われる燃料(Ⅳ)

火力発電

 電力会社を中心にアンモニア(NH3)は石炭との混焼実証が始まっている。NH3水素と比較して専焼や混焼時の発電価格を抑えることが可能であるが、国内大手電力会社の全ての石炭火力発電で20%混焼を行うと、約2,000万トン/年のNH3が必要でサプライチェーンの構築が大きな課題となっている。

アンモニア

 燃料としての「アンモニアの製造・利用技術(2014~2018年度)」のプロジェクトが、図7に示す内閣府主導の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「エネルギーキャリア」研究開発テーマの中で推進され、現時点で実証段階ではあるが急速に注目を集めている。

図7 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「エネルギーキャリア」研究開発テーマ

 2017年12月、「水素基本戦略」で、アンモニア(NH3)は水素キャリアの一つと位置づけられた。液化水素やメチルシクロヘキサン(MCH)に比べて輸送費が安価で、CO2を排出しないゼロエミッション燃料として火力発電、工業炉、船舶(燃料電池を含む)などへの直接利用が進められている。
 特に火力発電への直接利用では、電力会社を中心にアンモニア専焼技術の構築に先んじて、燃焼速度が遅いアンモニアは石炭との混焼実証、速い水素は天然ガスとの混焼実証が行われている。

アンモニア燃焼発電と水素燃焼発電の比較

 現在、商用アンモニアの大半は天然ガスなど化石燃料の改質で水素を分離し、鉄系触媒(Fe3O4)を用いたハーバー・ボッシュ法(Haber–Bosch process、N2+3H2→2NH3)により製造されている。カーボンニュートラルの観点から、改質反応で発生するCO2を回収・貯留することが必要となる。
 一方で、再生可能エネルギーによる電力で水分解により水素を製造し、ハーバー・ボッシュ法によりアンモニアを製造することも可能である。

 資源エネルギー庁のエネルギー白書2021によるアンモニアの製造・輸送に要する費用の概算を、表2に示す。アンモニアは製造・輸送・貯蔵のサプライチェーンの各段階で既存技術の活用が可能なため、水素と比較して専焼や混焼時の発電価格を低く抑えることが可能である。

 すなわち、石炭火力発電でアンモニア20%の混焼を行った場合の発電価格は12.9円/kWh、100%のアンモニア専焼を行った場合には23.5円/kWと試算されている。水素10%の混焼を行った場合の20.9円/kWh、100%の水素専焼を行った場合の97.3円/kWと比較することで優位性が示されている。

表2  水素とアンモニアのコスト比較
出典:資源エネルギー庁、エネルギー白書2021

 アンモニアは、肥料や工業用途などの原料用市場が構築されている。世界の原料用アンモニアの生産量は2019年で約2億トン/年程度であり、そのうち貿易されている量は1割(約2,000万トン)で、ほとんどが地産地消されている。

 国内では、原料用アンモニアの消費量は約108万トン(2019年)であり、国内生産が約8割、インドネシアとマレーシアからの輸入が約2割である。今後、石炭火力発電(出力:100万kW)にアンモニア20%の混焼を行った場合、約50万トン/年のアンモニアが必要となる。

 国内の大手電力会社の全ての石炭火力発電でアンモニア20%の混焼を行った場合、約2,000万トン/年のアンモニアが必要となり、現在の世界全体の貿易量に匹敵する。そのため、これまでの原料用アンモニアとは異なる新たな燃料アンモニア市場の形成と、サプライチェーンの構築が大きな課題となる。

アンモニアのサプライチェーン構想

 2020年8月から日本郵船、日本シップヤード、日本海事協会は共同で液化アンモニアガス運搬専用船(AFAGC C: Ammonia Fueled Ammonia Gas Carrier)の実用化開発を進めている。2021年6月には世界最大のNH3プレイヤーのヤラ・インターナショナル(Yara International)が参画した。 
 Yaraとの覚書締結では、船の設計開発、オペレーション手法の検討、法規制対応の検討、経済性の評価など、具体的な運航要件に基づく検討を進めている。

 2021年5月、JERAはYaraと製造時に排出されるCO2をオフセットしたブルーアンモニアや、再生可能エネルギー由来のグリーンアンモニアを製造するプロジェクトで協業を検討すると発表した。

 2021年6月、IHIと出光興産が、出光興産の徳山事業所の貯蔵施設・石油化学装置などを活用し、アンモニアのサプライチェーン構築の共同検討を始めると発表した。
 IHIはアンモニア貯蔵設備・入出荷設備や既設ナフサ分解炉等でのアンモニア燃焼実証、出光興産は海外からのアンモニアの輸入、コンビナート他へのアンモニア供給の検討や許認可等の取得を行う。

 2021年8月、三菱商事はロイヤル・ダッチ・シェルのカナダ現地法人と覚書を結び、2020年代後半にカナダでNH3製造を始める。カナダ西部アルバータ州で現地調達した天然ガスから水素を製造し、空気中の窒素と反応させ、NH3を約100万トン/年を製造して日本の電力会社向けに輸出する。
 天然ガスの改質過程で発生するCO2は、シェルが開発中の地中貯留設備(地下2km)に閉じ込める計画である。当面、国内の石炭火力発電所でNH3比率で20%の混焼を行うが、将来的にはNH3を50%以上に高め、NH3を100%(アンモニア専焼)とした発電技術の開発も進める。

 2021年8月、旭化成と日揮ホールディングス(HD)は福島県浪江町に再生可能エネルギー由来の「グリーンアンモニア」製造の実証設備を建設し、2024年度から数トン/日の生産計画を発表している。また、2027年度には水素製造装置を4万kWに引き上げ、量産によるコスト低減を目指している。

 2021年8月、商船三井はオーストラリアのエネルギー大手オリジン・エナジーと、オーストラリアにおける再生可能エネルギー由来のグリーンNH3のサプライチェーン構築の共同検討を行う覚書を締結した。2021年12月を目途に、グリーンNH3の海上輸送手段や、日本やアジアの需要を調査する。

 2021年10月、三井物産と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は西オーストラリアにおけるNH3生産の事業化調査に関し、子会社のMitsui E&P Australia Pty LtdとWesfarmers Chemicals, Energy & Fertilisers LimitedでCCSの共同調査を実施すると発表した。
 ウェイトシアガス田で生産される天然ガスを改質して得られる水素からNH3を合成し、その過程で排出されるCO2を廃ガス田に貯留し、ブルーNH3を輸出する。ハーバー・ボッシュ法(HB法)で100万トン/年の生産を目指す。JOGMECはロシアやインドネシアなど4地域で生産に向けた調査を始める。

 2021年10月、伊藤忠商事はノルウェーのNel ASAと水素分野における戦略的業務協力の覚書を締結し、水素関連ビジネスの推進で合意した。水電解装置(アルカリ水電解と固体高分子型水電解)を製造するNelと組み、再生可能エネルギーで水素を作り、HB法でグリーンNH3の製造を目指す。
 両社は共同で水素関連ビジネスの案件発掘と推進を行い、将来的には、生産・輸送・配給の各分野における関連企業との協業も視野に、国際的な水素バリューチェーンの構築を目指すとしている。

 2022年2月、JERAは「2050年までに発電所から排出されるCO2の実質ゼロ」を目指し、アンモニア燃料を調達するための国際入札を実施すると発表した。石炭火力発電所の環境負荷を抑えるため、2027年度~2040年代まで最大50万トン/年を調達するため、燃料NH3の国際調達網の構築を目指す。
 調達する燃料NH3はグリーンNH3とブルーNH3に限定し、JERAも製造段階から参画できることが入札条件で、国内外の商社、石油メジャー、プラント会社などに提案依頼書が送られている。国内の電力会社との連携、港湾や貯蔵用タンクなど受け入れ体制の整備、火力発電所の共同運用なども検討する。

 2022年6月、三井物産は米国の肥料製造販売会社CF Industries Holdings (CFインダストリーズ)と合弁会社を設立し、米国ルイジアナ州で燃料用ブルーNH3の製造工場を新設すると発表した。2027年には100~140万トン/年の生産を開始する計画を発表した。
 米国CFインダストリーズは、2021年11月に約1億ドルを投じてルイジアナ州のグリーンNH3製造工場にティッセンクルップ製の水電解水素製造装置(2万kW)を導入し、2023年には2万トン/年の再生可能エネルギー由来のグリーンNH3の商業生産を始める。

 2022年9月、會澤高圧コンクリートは、展示会「第2回スマートエネルギーWeek秋」で、海上に浮かべた浮体「グリーンアンモニア製造艦」(GAPS:Green Ammonia Production Ship)を公表した。
このGAPS「MIKASA」は、コンクリートベースの浮体式洋上風力プラントを海上に浮かべ、海水の真水化、水電解(10MW級)による水素の生産、グリーンNH3の合成(年産:約1700トン)や貯蔵を行う。また、海上や陸上での運搬、水素ステーションでのNH3から水素への転換も行うとしている。

 欧米は究極のクリーンエネルギー水素を目標にまい進している。火力発電へのアンモニア燃料の動きは、日本だけが特出している。実現には、膨大な量の燃料アンモニアを、低コストで安定的に入手可能な市場形成とサプライチェーン構築が必須である。『ガラパゴス化?』とならない注意が重要である。

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