FIT制度が導入された2012~2015年、地熱発電の設備設置容量の年平均伸び率は0%で推移し、2016年以降は若干の伸びを示すものの、年平均伸び率は4%である。現状のままでは、第6次エネルギー基本計画の2030年の目標である地熱発電の電力量(93~94憶kWh)の45.7~46.2%に留まり目標未達に終わる。
それでは最近、相次ぐ火災事故で注目度が上昇している「バイオマス発電」に注目して、2010年以降の発電電力量の推移を観てみよう。
10.順調に見えるバイオマス発電の導入
10.1 バイオマス発電のFIT買取価格の推移について
2012年7月のFIT施行で、バイオマス発電は燃料に応じて、①メタン発酵ガス化、②間伐材等由来、③一般木質・農作物残さ、④建設資材廃棄物、⑤一般廃棄物その他に区分され、開発レベルに応じて買取価格に差がつけられた。
■①メタン発酵ガス化:
下水汚泥・家畜糞尿・食品残さ由来のメタンガスで、買取価格は39円/kWhで、買取期間は20年間。
■②間伐材等由来の木質バイオマス:
間伐材と主伐材で、買取価格は32円/kWhで、買取期間は20年間。
■③一般木質バイオマス・農作物残さ:
製材端材、輸入材、パーム椰子殻、もみ殻、稲わらで、買取価格24円/kWhで、買取期間20年間。
■④建設資材廃棄物:
建設資材廃棄物、その他木材で、買取価格13円/kWで、買取期間20年間。
■⑤一般廃棄その他のバイオマス:
剪定枝・木くず、紙、食品残さ、廃食用油、汚泥、家畜糞尿、黒液で、買取価格17円/kWで、20年間。
2015年4月、②間伐材等由来の木質バイオマスについて、出力:2000kW未満の場合は32円/kWhで20年間と従来通りで、2000kW以上の大容量機の場合は40円/kWhで20年間と高めの買取価格が設定された。
2017年4月の「改正FIT法」の施行で、③一般木質・農作物残さについて、出力:2000kW未満の場合は24円/kWhで20年間と従来通りで、2000kW以上の大容量機の場合は、10月以降に21円/kWhで20年間と買取価格が引き下げられた。
2020年4月には、③一般木質・農作物残さの名称を、一般木質・農産物のバイオマス固体燃料と改め、出力:1万kW未満の場合は24円/kWhで20年間と従来通りが、1万kW以上の大容量機は入札方式が採用された。
その他の区分に関して、2023年には①メタン発酵ガス化の買取価格が35円/kWhに引き下げられたが、④⑤に関しては買取価格の変更はない。
資源エネルギー庁が示す2020年の発電単価(専焼29.8円/kWh、混焼13.2円/kWh)と比較すると、③木質バイオマスと④⑤廃棄物発電(ごみ発電)は安く、②間伐材等由来の大容量機に高い買取価格が設定された。
電気料金の高騰を抑えるため買取価格は申請の多い物件は下げ、申請の少ない物件は高く設定される。
10.2 バイオマス発電の発電電力量の推移
2010年以降に注目して、経済産業省が公表している電源別の発電電力量から、「バイオマス発電」による発電電力量のみを切り出して観る。
FIT制度が導入された2012~2015年、バイオマス発電の発電電力量の年平均伸び率は4%程度で推移し、2016年以降は、年平均伸び率は14.8%と高い値を示している。
バイオマス発電の買取実績は太陽光発電、風力発電に次いで多く、堅調な導入が進められている。
年平均伸び率14.8%で発電電力量が増加を続けた場合、2030年には1054億kWhに到達する。これは、第6次エネルギー基本計画で目標とした総発電電力量(9300~9400億kWh)の5%とするバイオマス発電の電力量(465~470億kWh)の2.2~2.3倍になる。

10.3 バイオマス発電の中止・撤退問題
順調に木質系バイオマス発電所の建設が進む一方で、相次ぐバイオマス発電所の中止・撤退が発表されている。その理由は、”周辺住民からの反対”、”バイオマス燃料の供給不足”、”建設費の高騰”である。
バイオマス発電の中止・撤退は、ごみ焼却発電である一般廃棄物発電や産業廃棄物発電ではなく、木質バイオマス発電とパーム油バイオマス発電に関するものである。
一般廃棄物発電と産業廃棄物発電の、いわゆる「ごみ焼却発電」による実力は300~400万kWである。政府は400~500万kWを木質と食品・畜産等によるバイオマス発電でまかなう無理な目標を設定し、FITにより新規参入を募ってきた。
バイオマス発電事業者協会によると、出力:1万kW以上の大型木質バイオマス発電所では、地元の国産材だけでは燃料をまかなえず、輸入材に頼らざるを得ない。しかし、輸入燃料価格の上昇が2020年後半から始まり、ロシアのウクライナ侵攻後の各種資源価格の高騰や円安による購入価格の高騰に拍車をかけている。
一方で、欧州の環境NGOや研究者らは、木材を原料とするバイオマス発電は、すべて再生可能エネルギーの枠組から除外すべきだと訴え始めている。
木材を燃やして出るCO2を回収するには、燃やした木材と同じ量を植林して育てなければ持続可能にはならない。しかし、木材の栽培には数十年を要し、伐採・加工・輸送まで含めたCO2排出量を加算すると、「カーボン・ニュートラル」は成立しないという指摘である。木材を大量輸入をする日本には、耳の痛い指摘である。
EUでもカーボンニュートラル実現のために、バイオエネルギーが不可欠とする認識は変わらない。ただし、森林バイオマスを燃料とする木質バイオマス発電に関しては、今後、森林破壊などを招かないための規制の強化と、それに伴う森林バイオマスの高コスト化が想定される。
燃料を大量に輸入する国内の木質バイオマス発電所では、安価な森林バイオマスの持続的な調達が困難となりつつあり、休止・廃止が相次いでいる。一度は低コスト化で負けた国内林業の再開発を進め、木質バイオマスの増産を再考する時期に来ている。
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