陸上風力発電は、2017年以降の上昇傾向が平均7.2%に留まり、2023年度の発電電力量は105億kWhに達したが、2030年度の目標値である465~470億kWhには程遠い。一方で、1990年代後半以降に補助金で設置された陸上風力発電所が、約20年の寿命を迎えて撤去が始まっている。
発電電力量の維持・向上には、既設の陸上風力発電設備の建て替えや出力増強(リパワリング)が有効であるが積極的な支援策が打ち出されていない。期待の洋上風力は着床式から導入促進区域を設定した浮体式への急拡大が推進されているが、世界的にはインフレによる撤退問題が生じている。
次に、再生可能エネルギーの中では注目度の低い地熱発電について、2010年以降の発電電力量の推移を観てみよう。
9.忘れ去られたのか?地熱発電の導入
9.1 地熱発電のFIT買取価格の推移について
2012年7月のFIT施行で、地熱発電は、出力:1.5万kW以上、1.5万kW未満に区分された。当初に設定された買取価格と買取期間は、それぞれ26円/kWで15年間、40円/kWhで15年間であった。
また、地熱発電の導入に関して様々な規制緩和が進むものの、リスクを伴う開発コストの高さと根強い地元の反対が壁となり、普及の兆しは見えない。にもかかわらず、FIT買取価格は変化なしが続いた。
2017年4月の「改正FIT法」の施行で、新たにリプレースの価格区分が追加された。
全設備更新型リプレースでは、1.5万kW以上と1.5万kW未満について、それぞれ20円/kWhで買取期間15年間、30円/kWhで15年間と設定された。地下設置流用型リプレースでは、1.5万kW以上と1.5万kW未満について、それぞれ12円/kWhで買取期間15年間、19円/kWhで15年間と設定された。
その後、地熱発電は忘れ去られたように、2023年に至るまで買取価格に変化はみられなかった。
最近では立地の容易さからバイナリー発電に注目が集まっている。しかし、一般にバイナリー発電の1基あたりの出力は低いため、地熱発電の発電電力量に及ぼす影響は限定的である。
資源エネルギー庁が示す2020年の発電単価(地熱発電17.4円/kWh)と比較すると、井戸さえ見つかれば発電事業者に”おいしい”買取価格の設定である。また、稼働年数が40年と長いのは利点である。しかし、井戸を見つけることリスクが高く、地熱発電の普及を妨げている。
9.2 地熱発電の発電電力量の推移
2010年以降に注目して、経済産業省が公表している電源別の発電電力量から、地熱発電による発電電力量のみを切り出して観てみよう。
FIT制度が導入された2012~2015年、地熱発電の設備設置容量の年平均伸び率は0%で推移し、2016年以降は、2019年、2020年、2023年に若干の伸びを示したものの、概ね年平均伸び率は4%に留まる。

年平均伸び率は4%で増設が進むと仮定すれば、2030年の地熱発電の発電電力量は43億kWhに拡大する。しかし、第6次エネルギー基本計画で目標とした総発電電力量(9300~9400億kWh)の1%とする地熱発電の電力量(93~94憶kWh)の45.7~46.2%に留まる。
そのため現状の地熱発電への支援では、2030年に発電電力量の目標(1%、第6次エネルギー基本計画)、2040年の目標(1~2%、第7次エネルギー基本計画)の達成は不可能であろう。
9.3 ようやく動き出した支援策
遅ればせながら、経済産業省が地熱発電の発電電力量の増強に向けてエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を使い、発電事業者のリスク低減に向けた支援策が始まった。
2023年10月には、経済産業省が地熱発電の開発加速のため、JOGMECによる資源調査を2025年度にも拡充すると発表。現在は地上からの地中構造調査と簡易掘削までの資源調査であるが、JOGMECが民間の開発事業者に代わり蒸気の噴出確認まで携わり、事業者のリスク低減を進める。
また、2024年11月、経済産業省は地熱発電で、民間に代わり掘削調査をJOGMECが行い参入障壁を低くするとし、第7次エネルギー基本計画に、地熱発電の開発促進や国の支援方針を盛り込むと公表した。
新支援策では、JOGMECが適した場所を探し出して掘削や地下構造の確認まで行い、地元との協議も政府主導で進め、商用化の見通しが判断できれば事業者を公募する。2025年度に候補地の選定を進め、早ければ2026年度にも調査を始め、公募開始は2030年頃の予定である。
地熱発電は燃料を必要とせず、昼夜・天候を問わずに24時間の発電運転が可能で、設備利用率は49%と風力発電の約22%、太陽光発電の約15%と比べてはるかに高く、国内調達可能な純国産エネルギーで、エネルギー自給率の向上に貢献する。
2012年7月のFIT施行以降に10年超を経て、ようやく政府は地熱発電の積極的な支援策を打ち出したが、その成果は2030年まで待つ必要がある。何が、これほど地熱発電開発を遅らせているのか?
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