ブルーカーボンによるCO2の固定(Ⅲ)

火力発電

 2000年代には国内の鉄鋼・電力会社などが中心となり、沿岸浅域の磯焼け対策などに乗り出した。しかし、本格的に国内でブルーカーボンに注目が集まるのは、2020年7月のジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)の設立と「Jブルーカーボンクレジット制度」の設立である。
 最近では、国内でもブルーカーボンに関連した製品開発や事業参入の発表が相次いでいる

ブルーカーボン関連の活動状況

 2022年11月、日本製鉄は、森から海に供給される鉄分を鉄鋼スラグ製品「ビバリーユニット」(鉄鋼スラグと廃木材チップを発酵させた腐植土を原料とした鉄分施肥材)を開発し、2004年から全国38カ所の沿岸へ提供を進めてきた。今回、全国6カ所の漁業協同組合と協業して新たな設置試験の開始を発表した。
 日本の沿岸海域では、過去数十年にわたり磯焼けという海の砂漠化が進み、鉄分をはじめとする栄養塩の不足が原因の一つとされていた。「ビバリーユニット」の適用海域では藻場が再生・回復し、漁獲高向上の効果も報告され、ブルーカーボン推進の観点からも有効であることが分かってきた。
 また、日本製鉄は、北海道増毛町で増毛漁業協同組合と共同で、2004年から海藻藻場の造成事業に取り組み、Jブルークレジットから、直近5年間の2018~2022年に吸収・固定化されたCO2量として、49.5トンCO2の認証発行を受けた。

 2023年2月、電源開発は、オーストラリアのセントラルクイーンズランド大学と 地域産出の産業副産物を多量に使用した低炭素素材(コンクリートの代替材料)を開発し、海洋ブロックとして実装することで、同素材表面に付着する海藻類によるブルーカーボンの実証試験を行うと公表した。
 
  2023年11月、東洋製缶グループHDは「イオンカルチャー(藻類増殖材)」を製品化し、2023年度中に地方自治体などに向けた販売を開始すると発表。港や岸壁の消波ブロックの表面に貼り付けて海藻の成長を促すことで、ブルーカーボン生態系が構築されることを期待している。
 イオンカルチャーは、海洋植物の成長を促進する二価鉄、ケイ酸、リン酸イオンなどの成分が、ゆっくりと水に溶け出すよう成分調整を行ったガラス製品で、不動テトラと共同開発し1993年に製品化された。
 2023年には高性能なイオンカルチャーの開発に成功し、従来品は溶け切るまでに約10年を要したが、成分調整により約3年で溶け、光合成促進効果の向上や有効範囲の拡大が見込める。

 2023年11月、電源開発は、北九州市と連携して「北九州港港湾脱炭素化推進協議会の特別講演会(2023年11月29日開催)」をゼロ・カーボン会議とすると発表。会議開催で発生するCO2(9.1トンCO2)を、北九州市内で実施したプロジェクトで認証を受けたJブルークレジットでオフセットする国内初の事例である。
 Jパワーの茅ヶ崎研究所は、北九州市若松総合事業所の構内で、Jブルーコンクリート(産業副産物を多量に活用した低炭素素材)を用いた消波ブロックによるブルーインフラ整備を進めており、同ブロックに付着した海藻が吸収するCO2をJブルークレジットとして認証を受けている。

 2024年2月、ENEOSは、産官学で2040年までに100万トン超/年のブルーカーボン創出をめざすと発表。参画するのは、港湾空港技術研究所、海洋研究開発機構、産業技術総合研究所、東京大学で、2025年度までに海藻・海草の種類などを詰め、2026年度以降にENEOS事業所の護岸などで実証を始める。
 これまでENEOSは、磯焼けの原因の一つであるウニを除去することで藻場の再生を進めるウニノミクス(東京・江東)や、養殖を起点に海洋の計測技術を手掛けるウミトロン(東京・品川)のシンガポール法人などに出資しており、これら出資先の技術も取り込みビジネスモデルを構築する。

 2024年6月、海洋事業等を展開する岡部は、ブルーカーボン事業への参入を発表。2023年9月より島根県隠岐郡海士町の海域で、海藻種苗培養技術を生かした「多段式養殖施設」を設置して検証試験を実施している。沿岸浅場から30m以上の深場まで、種類の異なる大型褐藻の収穫量の増大が期待される。

 2024年9月、大阪府阪南市の沿岸部から約100〜400mの沖合で、日立製作所、月島JFEアクアソリューション、大阪公立大学など18の企業や団体、自治体が産官学連合でブルーカーボン創出の実証を進めている。下水処理後に海に放流される水の栄養価を高めることで、周辺域の海藻を増やす試みである。
 日立製作所は下水処理工程の微生物濃度や送り込む酸素の量などを調節して、栄養塩濃度を適切に制御し、月島JFEアクアは下水処理水由来の栄養塩類を必要な箇所に届ける放流方式、KDDIは水中カメラを使って藻場の生育状況を精度高く計測できるシステムの活用を進める。
 実際に下水処理場で栄養塩濃度を高めて放流するのは自然界への影響が大きいため、自治体や漁業関係者などとの調整が必要である。 

図5 ブルーカーボンに向けた民間企業の取り組み 出典:港湾空港技術研究所

 2024年10月、ブルーカーボン事業で出光興産や商船三井など約10社が連携する。東京海上アセットマネジメントが主催し、鉄鋼メーカー、地方銀行、富士通、日建工学などが定例で情報交換会を行う。漁業組合との交渉ノウハウ、沖合に出る際の課題を共有し、海藻の生育を監視する技術の開発・共同導入などを行う。

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