ブルーカーボンによるCO2の固定(Ⅱ)

火力発電

 2020年7月、国土交通省認可法人であるジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が設立された。ブルーカーボン生態系とその他の沿岸域・海洋における気候変動対策への取組みを加速すのが目的であり、「Jブルーカーボンクレジット」制度が始められた。

ブルーカーボンクレジット

Jブルークレジットの仕組み

 「Jブルークレジット®」は、国土交通省認可法人のジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE) が独立した第三者委員会による審査・意見を経て、認証・発行・管理する独自のクレジットで、2020年度に始まった。
 JBEでは、一般的な国際標準とされる100年間以上の長期にわたり沿岸域・海洋に貯留されるCO2の数量を客観的方法論に基づき科学的合理的に算定し、これを認証・発行している。

 クレジット創出者(NPO、市民団体など)は、ブルーカーボン生態系の再生や創出の活動資金を獲得できる。一方で、クレジット購入者(企業、団体など)は、CO2排出権を買う(オフセット)できるだけでなく、海の環境保全活動に貢献できる。

図3 カーボン・オフセット制度のイメージ 出典:JBE

CO2貯留量の算定式について

 科学的知見に基づくクレジット認証のためには、CO2貯留量を正確に見積る必要がある。そのため海洋観測技術の開発や、ブルーカーボンの貯留メカニズムの解明に関する研究が進められた。

 その結果、海草・海藻藻場のブルーカーボン貯留量評価モデルが農林水産技術会議プロジェクトでまとめられ、式1で示す藻場のCO2貯留量の算定式が示された。
 植物プランクトン、海草、大型藻類、マングローブなど光合成生産の出発点となる植物、有機物の堆積や外洋への流出、大気と海洋でのCO2の交換速度などプロセスが複雑で、海域によっても吸収係数は異なる。そのため各係数の詳細は、「海草・海藻藻場のCO2貯留量算定に向けたガイドブック」にまとめられた。

 最終的には、科学的な根拠に基づいて、自国や自社に不利にならない算定法を提案し、それを公的なものとして国連に報告しているのが現状である。国連による算出方法の検証を経て、正式にインベントリとして認められるかどうかが決定される。

図4 藻場のCO2貯留量の算定式 出典:水産研究・教育機構

 2024年4月、環境省が国連に報告する温暖化ガスのインベントリ(排出・吸収量)に、海藻・海草由来のブルーカーボンを世界に先駆けて取り入れた。脱炭素対策の有効な手法として注目が集まり、ブルーカーボンクレジットの動きが国内でも始まっている。

具体的なクレジットの売買状況

 2009~2012年に、国交省関東地方整備局が造成し、その後、横浜市漁業協同組合や海辺つくり研究会、金沢八景-東京湾アマモ場再生会議が、様々な活動によって藻場の保全を続けてきた。
 2017年度、ドローン撮影により藻場の面積が把握できたため、1年間のCO2吸収量が算定された。クレジットの対象は、横浜港にある横浜ベイサイドマリーナ横の約16ヘクタールの藻場である。

 JBEが運営事務局となり、第三者機関による審査認証委員会を設けて審査・認証が行われた結果、Jクレジットの発行量は22.8トンCO2であった。JBEが申請した50.8トンCO2の半分程度の評価であるが、海の中の不確実性などを踏まえて過剰評価とならないよう吸収係数が設定された。

 Jブルークレジット購入者は、住友商事、東京ガス、セブン-イレブン・ジャパンの3社で、総量配分方式により購入金額に応じてクレジットが配分された。各社の購入金額は明かにされていない。

 森林など陸域生態系のグリーンカーボンに比べて、CO2吸収量の定量化が難しいブルーカーボンクレジットの普及は遅れ気味である。
 しかし、2020年度の実績は1ヶ所/22トンCO2であったが、2022年度は21ヶ所/3,733トンCO2と拡大しており、商船三井、東京海上日動火災保険、東京ガスなど100社以上が購入した。
 JBEによれば、ブルーカーボンクレジットの取引価格は、生物多様性確保などの環境価値が評価され、グリーンクレジットなどの5倍以上高値で取引されている。

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