普及率1%に達した定置用燃料電池(Ⅶ)

火力発電

 水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を原料とし、触媒(Ni、Ruなど)を用いて熱化学的にメタンを合成する(メタネーション)技術が開発され、実用化されている。

 現在、再生可能エネルギーを使いメタンを合成するメタネーション変換効率は55~60%である。最近、再生可能エネルギーを使いSOFCの逆反応であるSOECメタネーションの開発が進められている。水蒸気とCO2を使って電気分解し、高い変換効率85~90%を達成している。

メタネーション技術の開発

メタネーション技術とは?

 1902年、フランスのPaul Sabatier(ポール・サバティエ)により、水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を原料とし、高温高圧状態でニッケル(Ni)触媒を用い、熱化学的にメタン(CH4)を合成(メタネーション)する技術が見出された。アルミナ上にルテニウム(Ru)触媒を担持させた高効率触媒も開発されている。
 一方、最近では熱化学法以外に、電気化学法、光還元法、バイオ法などの研究開発も行われている

 「2050年カーボンニュートラル」に向け、再生可能なクリーンエネルギーに転換していくグリーントランスフォーメーション(GX)が政府により推進される中で、注目を集めているのが「メタネーション技術」である。
 再生可能エネルギー水素を原料として得られる合成メタン(e-メタン)を、都市ガスの代替として使う試みで、既存の都市ガスのインフラがそのまま使える。合成メタンの燃焼時に排出されるCO2は、製造時に原料として回収されたCO2であり、循環使用するためにCO2排出量は実質ゼロになる。 

 2021年6月、メタネーション技術の確立と社会実装に向けた「メタネーション推進官民協議会」が設立され、官民両面での取り組みが加速する。政府は、2030年までに都市ガス導管に注入するガスの1%をカーボンニュートラルメタンとし、2050年までに90%とする目標を掲げた。残り10%は、水素直接利用、バイオガスなど。

 現在、再生可能エネルギーなどの余剰電力で水電解により水素(H2)を製造し、別途に回収貯留したCOと共にメタネーション装置に入れ、高温で触媒反応させることで合成メタン(CH4)を製造する方法が進められており、実用化に向けて量産化と低コスト化が進められている。

図18 メタネーションによるCO2排出削減効果 出典:資源エネルギー庁

メタネーション装置の開発動向

 2019年10月、国際石油開発帝石(現INPEX)と日立造船は、メタネーション試験設備を長岡鉱場の越路原こしじはらプラント敷地内に完成させた。越路原プラントで天然ガス生産時に付随するCO2と、固体高分子水電解装置(32Nm3/h)により製造された水素から合成メタンを製造する。
 日立造船製のプレート型メタネーション反応器は、熱回収効率が87%と高く、運転温度:200℃、運転圧力:0.7MPaであり、生成ガス(メタン濃度:91.2%)をガス精製器を通し、高濃度化(99.6%)が可能である。メタン製造能力は8Nm3/hで、4500h以上の安定製造を確認している。

図19 日立造船のメタネーション実証プロセスフロー 出典;日立造船

 2021年10月、INPEXと大阪ガスは、大規模メタネーション装置(製造能力:約400Nm3/h)の導入のNEDOプロジェクト(~2025年度末)を開始した。INPEX長岡鉱場の越路原プラントからCO2を回収貯留し、メタネーション設備を接続し、製造した合成メタンをINPEXの都市ガスパイプラインへ注入する。

 2022年3月、東京ガスは横浜テクノステーションで、メタネーション実証試験を開始。主に太陽光発電の電力で、英国ITM Power製の固体高分子型水電解装置(製造能力:30.9kg/h、圧力:1MPa未満)で水素を製造し、横浜市清掃工場の排ガスから三菱重工業製のCO2分離回収装置で得られたCO2をトレーラーで受け入れる。
 日立造船製の多管シェル&チューブ型メタネーション装置(CH4製造能力:12.5Nm3/h)でメタン合成を行う。2020年代中頃に数百Nm3規模に拡大し、2030年にガス販売量の1%に合成メタン導入の目標を掲げている。 

図20 横浜テクノステーションに導入された日立造船製のメタネーション装置

 2022年6月、日立造船が、小田原市環境事業センターのごみ焼却施設から排出されるCO2を回収貯留し、LPガスの改質水素と反応させるメタネーション実証装置の運転を開始した。排ガスからのCO2分離にはエア・ウォーターの技術を活用しており、合成メタンの製造能力:125N㎥/hである。

 2022年8月、日本特殊陶業はメタネーション装置を開発し、2023年4月から小牧工場で実証実験を行うと発表。自社のゼオライト膜でガスエンジン排ガスからCO2を回収貯留し、水電解で得られた水素と反応させて1Nm3/h(0℃、1気圧)の合成メタンを製造して、ガスエンジンの燃料として再利用する。
 将来的に、4Nm3/hのメタネーション装置を開発し、2030年に中小規模工場への販売を目指す。製造コストは100円台/Nm3と、現状の1/3程度に引き下げ計画である。  

 2022年9月、豊田自動織機は高浜工場でメタネーションの実証実験を始めた。ボイラから排出されるCO2を回収貯留し、化石燃料由来のグレー水素と混ぜて合成メタンを製造し、別ボイラの燃料で再利用する。将来的に太陽光発電によるグリーン水素へ切り替え、全工場にメタネーション設備を導入する。

 2022年10月、IHIは、合成メタンを製造できる「小型メタネーション装置」の販売を開始した。2019年5月からシンガポール科学技術庁化学工学研究所と共同で触媒開発した技術がベースで、シェル&チューブ型反応器で、合成メタン製造量:12.5Nm3/hで、外形寸法は幅2250×長さ6100×高さ2850mmである。 

 2024年5月、IHIは、東邦ガス知多e-メタン製造実証施設向けに「メタネーション標準機」を納入した。東邦ガスでは、5Nm³/hで運転する。2030年には大型装置(数千~数万Nm³/h)の商用化も予定している。
 2022年、JFEスチールから実証機(500Nm³/h)を受注しており、高炉排ガスからのCO2回収(20トン/日)も含めて2025年の稼働を予定する。吸熱反応のCO2回収と発熱反応のメタネーションを組み合わせ、エネルギー効率を高める。

図21 IHIが知多e-メタン製造実証施設に納入したメタネーション標準機

SOECメタネーションの開発動向

  2020年7月、デンソーは、安城製作所のアルミ溶解炉などから出たCO2を回収し、太陽光発電を使って水電解で得た水素を使いSOECメタネーションの実証実験を始めた。合成メタンはガス燃料に使い、CO2を工場内で循環させる。2025年度から社外での実証実験にも取り組み、2030年度の事業化をめざす。  

 2022年4月、大阪ガスは金属支持型SOECで水素を製造し、回収されたCO2から都市ガスを製造するメタネーション試験設備を大阪市酉島地区に建設すると発表した。
 2027年度までに200世帯程度、2030年度までに1万世帯分の都市ガス製造を実現し、設備の大型化などで製造コスト削減を進め、2040年頃の事業化を目指す。2023年8月には、石油元売りのENEOSと共同で大阪湾岸での大規模施設の建設に向けた検討に入った。

 2022年4月、大阪ガスは大阪市や大阪広域環境施設組合と、再エネ由来の水素と生ごみを発酵させて製造したバイオガス(メタン約60%とCO2約40%)中のCO2でメタネーションを行い、合成メタンを需要家に供給する。環境省「水素サプライチェーン構築・実証事業」(2022年度~25年度)で行う。 

2024年6月、  大阪ガスは、舞洲工場のエネルギー技術研究所内にSOECメタネーションのラボスケール試験装置(製造能力:0.1Nm3/h))を設置し、e-メタンの製造を開始した。SOEC電解装置で再エネ電力で水とCO2を電気分解し、生成した水素や一酸化炭素からメタン合成反応装置の触媒反応でe-メタンを合成する。
   外部水素の調達が不要で、高温(約700~800℃)の電気分解により、必要な再エネ電力等を低減し、メタン合成時の排熱の有効利用により、従来のメタネーション(約55~60%)を大幅に上回るエネルギー変換効率約85~90%の実現をめざす。
 その後、2025~2027年度にベンチスケール試験(e-メタン製造規模:10Nm3/h級、一般家庭約200戸相当)、2028~2030年度にパイロットスケール試験(400Nm3/h級、約1万戸相当)を進め、2030年度にe-メタン製造技術の確立、実証フェーズを経て、2030年代後半から2040年頃の実用化をめざす。   

図22 従来技術とSOECメタネーションの比較 出典:大阪ガス

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