石油会社を中心に合成燃料(e-メタノール)の開発が進められている。e-メタノールからは、合成ガソリンや航空機燃料SAFに加工することができる。
一方、ガス会社を中心に合成燃料(e-メタン)の開発が進められている。e-メタンは都市ガスとほぼ同組成であり、都市ガス導管に直接注入できる。
石油・ガス供給分野の取り組み
既存のエンジンでの使用や燃料インフラ・システムの活用が可能な合成燃料(e-fuel)は、導入コストを抑えられるため産業界には大きなメリットである。特に石油精製業は、石油需要の減少で設備能力削減が求められきた経緯があり、合成燃料への転換は起死回生の機会である。
合成燃料(e-fuel)は運輸関連(自動車、船舶、航空機)以外にも、一次エネルギーとして化石燃料を使う様々な分野での代替利用が可能である。
合成メタノールの製造
2023年3月、出光興産は苫小牧市の北海道製油所で、グリーン水素を使った合成燃料の実用化を発表した。2030年までに製油所などで排出するCO2とグリーン水素から液体合成燃料を製造する。
2023年5月には、チリのHIFグローバルと合成燃料の供給で提携した。製造ノウハウを蓄積して、2020年代後半までに北海道製油所での合成燃料の生産をめざす計画である。
2024年5月、HIFグローバルへ1億1400万米ドルの出資を発表。2035年に国内外の拠点で50万トン規模を目安に、e-メタノールの供給体制を構築する。
2023年9月、ENEOSは、HIFグローバルと協業の覚書を締結し、チリ・米国などの拠点から合成燃料(e-メタノール)の調達を発表。日本でCO2の回収、e-メタノールから合成ガソリンや航空機燃料SAFに加工する拠点の建設、合成燃料の供給サプライチェーン構築を進める。
HIFグローバルは、世界各地の拠点でe-メタノールを15万バレル/日生産する計画を発表している。
2024年2月、出光興産、ENEOS、北海道電力は、北海道苫小牧西部エリアでの国産グリーン水素サプライチェーン構築事業の実現に向けて覚書を締結した。
2030年頃までに、約1万トン/年以上のグリーン水素を製造できる水電解プラント(100MW以上)を建設し、出光興産、ENEOS、および地域の工場にパイプライン供給するサプライチェーンの構築をめざす。
2024年2月、伊藤忠商事は、日本で回収したCO2をオーストラリアに輸送し、グリーン水素を使う合成燃料(e-fuel)の製造・輸出の調査を開始した。HIFグローバルの子会社、JFEスチール、商船三井と、コストなどを調べて事業化を検討し、2030年までの製造開始を想定する。
伊藤忠商事が事業全体を統括し、HIFグローバルが合成燃料の製造地域やコストを調査、JFEスチールは日本でのCO2回収、商船三井は船舶輸送のコストなどを調査する。
合成メタンの製造
2022年11月、東京ガス・大阪ガス・東邦ガス・三菱商事は、合成燃料事業の検討を開始した。再生可能エネルギー水素と工場などから出たCO2から、メタネーション技術でe-メタンを製造し、三菱商事が参画する米国ルイジアナ州のLNG製造基地キャメロンの近郊でLNGに混入する。
2030年には3社の都市ガス販売量の1%に相当する13万トン/年を日本に輸入する計画で、政府支援を得て、2025年度に着工し、2029年度の操業を計画している。
2023年8月、大阪ガス・ENEOSは、大阪港湾部で合成燃料(e-メタン)の量産を計画。2030年までに6000万m3/年の製造をめざし、大阪ガスが近隣工場から11万トン超/年のCO2を回収し、ENEOSがオーストラリアなどで製造した安価なグリーン水素をトルエンと結合させて2万トン/年のH2を輸入する。
しかし、グリーン水素の調達は輸入頼みで、e-メタンの生産コストは240〜250円/Nm3(0℃、1気圧)と試算され、現在のLNG価格の5倍と高価で商用化は難しいのが現状。ガス業界は2030年に120円/Nm3、2050年には40〜50円/Nm3の目標を立て、革新的メタネーション技術の開発を加速している。
2024年3月、東京ガスや大阪ガスは、都市ガスの脱炭素化を進めるため、合成燃料(e―メタン)の普及に取り組む国際団体「e-NG Coalition(イーエヌジーコーリション)」の設立を発表した。
欧州で事業開発を進めるベルギーのツリー・エナジー・ソリューションズ(TES)が代表幹事、フランスのエンジー、トタルエナジーズ、米国センプラ・グループ、日本勢は東邦ガスと三菱商事が加盟する。CO2排出を相殺する仕組みや品質を担保する制度など、国際ルールの整備を促して早期の普及をめざす。
2024年6月、大阪ガスは、高効率のSOECメタネーションの試験装置を大阪市此花区の同社研究施設内に完成させ、試験を開始した。装置の規模を段階的に拡大し、2030年代後半~40年頃の実用化をめざす。
合成燃料(e-メタン)は都市ガスとほぼ同組成で、都市ガス導管に直接注入できる。国内でe-メタンの製造装置を保有し、現在のガス供給インフラを変えることなく、使用量を拡大する戦略である。
一方で、欧州では天然ガスのパイプラインに水素を混ぜてCO2を減らす取り組みが増えている。将来の水素社会を見据えての取り組みであるが、水素混焼量には限界がある。
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