なぜか伸びない水力発電(Ⅳ)

再エネ

 政府は、大水力の開発はほぼ終了しているとし、「流れ込み式による3万kW未満の中小水力の開発」を目標に設定した。しかし、そもそも太陽光発電や風力発電に比べて、中小水力発電の導入ポテンシャル(開発余地)は圧倒的に少なく、増設が困難であったのか? 

国内の水力発電の導入ポテンシャル

経済産業省の包蔵水力量の調査

 国内では、1910年(明治43年)~1913年(大正2年)の第1回発電水力調査がおこなわれ、1981年(昭和56年)~1986年(昭和61年)に第5回が実施された。この調査で明らかにされた水資源のうち、技術的・経済的に利用可能な水力エネルギー量は「包蔵水力量」と呼ばれている。

 資源エネルギー庁によれば、2022年3月末時点の「国内包蔵水力量」は4507地点で設備容量:4667万kWに達する。内訳は既開発が2010地点、2752万kWで、既開発率は約59%である。工事中が104地点、100万kWで2%を占め、新規発電所建設で廃止となる分を差し引いた未開発分は、2393地点で1815万kWで39%である。

 発電方式別で示した包蔵水力量は、一般水力では「流れ込み式」が2648地点で設備容量:1362万kW、「調整池式」が648地点、1322kW、「貯水池式」が298地点、774万kWである。また、参考である「混合揚水」が36地点、1308万kWである。ただし、混合揚水は、河川の流入分による発電電力量が集計されている。
 それぞれの未開発率は、「流れ込み式」が63%が最も多く、「調整池式」が16%、「貯水池式」が5%である。 

図8 発電方式別の国内包蔵水力量と開発状況(2022年3月末) 
出典:資源エネルギー庁

  また、一般水力の出力別包蔵水力を、発電容量別に「既開発」、「工事中」、「未開発」に区分すると、10万kW以上の大水力と、特に発電容量が3万kW以上の中水力については、既開発率が非常に高い。
 未開発率は、大出力の10万kW以上が4.4%5~10万kWが14.8%と少なく、中出力の3~5万kWが19%、1~3万kWが33.7%、小出力の0.5~1万kWが52.1%、0.3~0.5万kWが75.1%、0.1~0.3万kWが74%、0.1万kW以下が46%である。

 以上から、国内では経済的に優れた大中水力発電の開発はほぼ終了し、残された候補地点の多くは立地などから経済的に優れているとはいえないとされた。その結果、今後は貯水池式や調整池式などのような大規模な土木工事を必要としない流れ込み式による3万kW未満の中小水力の開発が目標とされた。

 ところで、大水力、中水力、小水力と規模で分類するようになったのは最近で、2012年7月に始まった再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)では、出力1000kW以上3万kW未満を中水力、1000kW未満を小水力と規定し、3万kW以上の大水力はFIT対象外とされた。

図9 発電規模別の国内包蔵水力量と開発状況(一般水力、2022年3月末) 
出典:資源エネルギー庁

環境省の導入ポテンシャルの調査

 2008年~2009年、環境省が独自に国内における中小水力発電(設備容量:3万kW未満)の「賦存量」と「導入ポテンシャル」を調査した。
 「賦存量」とは、種々の制約要因(土地の傾斜、法規制、土地利用、居住地からの距離等)を考慮せず、設置可能面積、河川流量などから理論的に推計されたエネルギー資源量である。
 また、「導入ポテンシャル」は、エネルギーの採取・利用に関する種々の制約要因による設置の可否を考慮したエネルギー資源量、すなわち開発余地である。

 その結果、中小水力発電の河川部における賦存量の全国総計:1811万kWであり、東北電力:27.5%が最も多く、中部電力:17.2%、北陸電力:16.6%、東京電力:13.5%の管内と続いている。

 一方、導入ポテンシャルは河川部における全国総計:1525万kWと多く、内訳は東北電力:27.0%と最も多く、中部電力:17.9%、東京電力:14.7%、北陸電力:12.6%の管内と続き、いずれの管内でも設備容量:出力0.1~0.5万kWが過半を占めた。
 河川部以外の導入ポテンシャルは、上水道が12.2~13.3万kW下水道が1.0~1.1万kW工業用水道が1.1~1.4万kWであることが報告されているが、河川部に比べると極めて寡少であった。

図10  電力供給エリア別の中小水力発電の賦存量

 2020年3月、環境省地球温暖化対策課が、最新の再生可能エネルギーの導入ポテンシャルを示した。中小水力発電の全国総計:920万kWで、その内訳は河川部:890万kW、農業用水:30万kWである。

 しかし、この値、太陽光発電の全国総計:27億4595万kW(住宅用:2億978万kW、公共系:25億3617万kW)、風力発電の14億478万kW(陸上:2億8456万kW、洋上:11億2022万kW)に比べて圧倒的に少なく、地熱発電の1511万kW(フラッシュ:1439万kW、バイナリー:72万kW)並みである。

 政府は、大水力の開発はほぼ終了しているとし、「流れ込み式による3万kW未満の中小水力の開発」を目標に設定した。しかし、そもそも太陽光発電や風力発電に比べて、中小水力発電の導入ポテンシャル(開発余地)は圧倒的に少なく、増設が困難であったのか? 

コメント

タイトルとURLをコピーしました