なぜか伸びない水力発電(Ⅲ)

再エネ

 中小水力発電の設備利用率は50~58%で、地熱発電の49%で、風力発電の約22%、太陽光発電の約15%と比べてはるかに高く、電力貯蔵を必要としない特長を有する。また、水車と発電機は国内で調達することが可能であり、純国産エネルギーと位置付けられ、エネルギー自給率の向上に貢献する。

 そのため、政府は中小水力発電の積極的な導入をめざして、河川の水利使用許可の手続き簡素化河川流況データや利水計画の情報公開を進めた

導入拡大のための規制緩和と支援 

国土交通省の手続き簡素化

  従来、河川の流水を利用する場合、農業用水、水道用水、工業用水、水力発電などの目的ごとに、河川管理者(一級河川:国土交通大臣、二級河川:都道府県知事、準用河川:市町村長など)の許可が必要
 また、河川から取水して利用する場合、下流での水利用や河川環境への影響、治水上・利水上の支障の検討に、水力発電のように流水を消費しなくても、河川管理者による「水利使用許可」が必要であった

 2000年代に入り国内では、新たにダムなどの大規模な土木工事を伴わない中小水力発電」は、風力や太陽光と同様に設備を導入しやすいと考え、河川環境や河川使用者に影響が出ないことを条件に、国土交通省は、水力発電所の新設や増強に必要な取水量を増やす手続きの簡素化を進めた。

 この「水利使用許可」は、事業主体が同じで一本の水路内で複数の発電設備を設置する場合には、一本にまとめて申請することが可能である。このような従属発電」については許可制に代えて登録制を導入し、さらなる簡素化を進めるために河川法の改正が進められた。以下には、その詳細をまとめる。

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 2005年3月、国土交通省水管理・国土保全局は、「従属発電」となる小水力発電は、河川の流量等に新たな影響を与えないため、水利使用許可手続に係る添付図書類を大幅に省略した。

表1 従属発電に係る水利使用許可権限の移譲 出典:国土交通省

 2011年3月、一級河川について、主たる水利使用と従属発電に係る水利使用の許可権者が同一となるよう、国土交通大臣から都道府県知事または政令市長への水利使用許可権限の移譲が行われた。 

表2 従属発電に係る水利使用許可権限の移譲 出典:国土交通省

 一方、2013年4月、小水力発電(出力:1000kW未満)の水利使用を「特定水利使用」から除外し、一級河川の指定区間では、都道府県知事または政令市長の許可に水利使用許可権限が移譲された。
 2013年7月、非かんがい期等での小水力発電、2013年12月、地域活性化総合特別区域計画に記載された小水力発電について、水利使用許可の簡素化標準処理期間の短縮化等が実施された。また、一定の要件を満たせば、従属発電は河川の流量などに新たな影響を与えないため登録制が導入された。

 2013年12月、登録制は、従属元水利使用の許可審査で下流の利水者や河川環境への影響を既に確認しているため手続を簡素化。慣行水利権に係る小水力発電についても期別の取水量が明確であり、従属関係が確認できるものは登録制の対象とし、取水量調査の簡素化した。
 「小水力発電を行うための水利使用の登録申請ガイドブック」を、国土交通省が出している。

表3 小水力発電に係る許可手続の簡素化 出典:国土交通省

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河川の流量調査の情報公開

 中小水力発電の開発期間が長くなる理由の1つに、従来は発電設備の設計にあたり流量調査が必要になることがあげられる。通常は数年~10年程度の流量を調べ、その調査結果により発電設備を設計し、地元と調整に入り、事業化が決定される。
 稼働まで、出力:1000kW未満の小水力発電設備は3~5年程度大水力発電設備は5年以上を要する。

 経済産業省では中小水力発電の開発期間短縮のために、国保有の河川流況データや利水計画の情報を事業者に公開している。また、民間の発電事業者が所有する流量観測データも共有できるようにするほか、新規開発事業者を対象に流量調査の費用補助制度を2016年度に新設している。

 また、農業用水や水道用水などのように、既に水利使用の許可を得ている水を利用して水力発電を行う場合には、許可手続に必要な書類の簡素化が進められた。当然のことであるが、農業用水の排水や、下水処理水、ビル内の流水などを利用して発電を行う場合には、水利使用許可を必要としない。

民間による水力発電支援

 2013年7月、自社で再生可能エネルギー発電を行う場合に、三井住友海上火災保険が「中小水力発電総合補償プラン」を開始した。中小水力発電事業者向けに、保険とデリバティブを組み合わせた新商品である。
 中小水力発電事業者を取り巻く様々なリスク(財物損害リスク、利益損失リスク、賠償責任リスク、天候不順リスクなど)を総合的に分析し、顧客へのリスク管理に関する適切な助言と必要な補償を供給できるよう、火災保険(財物・利益)、土木構造物保険、賠償責任保険、天候デリバティブをパッケージ化した。

 2017年4月、電力小売業の東京電力エナージーパートナーが、水力発電の電力だけを供給する国内初の電気料金プラン「アクアプレミアム」を開始した。契約電力が500kW以上の利用者が対象で、年間使用量が100万kWh以上か、電力を使用する施設の10%以上をアクアプレミアムで購入する場合に限られる。
 電力料金はCO2を排出しない付加価値分を毎月使用量に応じて上乗せするため高目となるが、再生可能エネルギーの導入量を拡大してCO2排出量の削減に取り組むソニーや三菱地所などが購入を始めた。

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