使用済核燃料の再処理工場の建設が30年超遅れたことで、電力会社の保有する原発内の貯蔵プールは、使用済核燃料で満杯状態にある。これを危惧した原発立地自治体の要請を受け、電力会社は独自に中間貯蔵施設の建設を開始した。しかし、これは問題の先送りに過ぎない。
問題の根本は再処理工場の建設の遅れである。莫大な投資と30年超の長期間をかけても解決できない難しい技術なのであろう。
使用済核燃料の中間貯蔵施設の建設遅れ
政府は原発で生じた使用済核燃料に残るウランとプルトニウムを抽出し、MOX(混合酸化物)燃料に加工し再利用する核燃料サイクルを進めている。電力会社は原発の貯蔵プールで使用済核燃料を仮保管し、青森県六ケ所村の再処理工場で処理を行う計画であったが、その稼働が30年超も遅れている。
その結果、使用済核燃料は各原発の貯蔵プールなどで管理保管されており、2023年の総保管量は約1.9万トンに達する。全施設の管理容量は合計約2.4万トンのため約80%に達する。そのため、一時保管が継続されて最終処分地化するのを懸念した立地自治体が、電力会社に搬出を強く促す動きが出ている。
2020年11月に原子力規制委員会は、東京電力柏崎刈羽原発(保管量:2370トン、保管率:81.4%)と日本原子力発電敦賀原発(保管量:630トン、保管率:69.2%)、東海第二原発(保管量:370トン、保管率:84%)の使用済核燃料を保管する青森県むつ市の「中間貯蔵施設」の安全審査の合格を発表した。
これにより、2021年度以降で最長50年間の使用済核燃料の保管が可能となった。しかし、他の原発では県外への搬出先が見出せていない。そのため、2020年12月に電気事業連合会は青森県むつ市で建設中の「中間貯蔵施設」の原発各社での共同利用の考えを示したが、地元むつ市から強い反発を受けた。
リサイクル燃料備蓄センター(東京電力、日本原子力発電)
2010年8月、東京電力と日本原子力発電は、青森県むつ市で「リサイクル燃料備蓄センター(貯蔵量:5000トン)の建設を開始し、2013年8月に貯蔵建屋(1棟目:3,000トン)が完成した。
その後、2013年12月に施行された「核燃料施設等の規制基準」に適合するため、2014年1月に事業変更許可申請を行い、2020年11月に事業変更許可を得た。2023年8月、運営会社のリサイクル燃料貯蔵は青森県とむつ市に対し、中間貯蔵事業の開始を「2023年度下期から2024年上期」に延期すると伝えた。
使用済核燃料は、年間で約200~300トンを4回程度に分けて貯蔵建屋に搬入される。建屋の使用期間は50年、キャスクごとについても最長50年間とし、操業開始後40年目までに貯蔵した使用済核燃料の搬出について協議するとしている。
原子力規制委員会により承認された中間貯蔵施設では、高さ28mの建屋内に使用済核燃料を入れた金属製収納容器(キャスク)を設置し、空気対流で冷却する乾式貯蔵が採用された。原発の貯蔵プールで水をポンプ循環させる冷却方式に比べ、危険性は低いと考えられている。
2024年3月、リサイクル燃料貯蔵(RFS)は安全対策工事を3月中に終え、使用済み核燃料中間貯蔵施設(むつ市)の操業開始目標を2024年7~9月と示し、2024年度から3年間の貯蔵計画を県やむつ市に報告した。 RFSによると使用済核燃料を入れた収納容器を2024年度に1基、2025年度に2基、2026年度に5基搬入する。
中間貯蔵施設の建設問題(関西電力、中国電力)
一方、福井県内にある関西電力の7基の原発にも大量の使用済核燃料が保管され、貯蔵容量の8割を超えており、県外への搬出を迫られている。関電電力は、中間貯蔵施設の県外候補地を2023年内に選定できなければ、40年を超えて運転している高浜1、2号機と美浜3号機の運転を停止するとの約束を交わしている。
2023年6月、関西電力は使用済核燃料の一部をフランスに搬出する計画を福井県に報告し、理解を求めた。関西電力は2030年頃に2000トン規模の中間貯蔵施設へ移送する計画であり、フランスへの搬出は10%の200トンに留まるため、福井県側には不満の声が上がった。
2023年8月、中国電力が山口県上関町に提案した中間貯蔵施設の建設をめぐり町議会が開かれ、建設に向けた地質などの調査を受け入れを表明した。中国電力は関西電力と共同で、上関町にある中国電力の原発建設用敷地内で調査を行う。
2023年10月、福井県知事は、関西電力の原子力発電所で生じる使用済核燃料をフランスに搬出する計画や、県内の貯蔵量を増やさない姿勢を「一定の前進があった」と評価。高浜1、2号機と美浜3号機について、「来年以降の運転継続について理解を示したい」と表明した。
関西電力は使用済核燃料の県外搬出について、新たに青森県六ケ所村の再処理工場(2024年度上期完成予定)への2026年度から搬出、2030年頃に中間貯蔵施設の操業を開始して搬出を示した。また、原発敷地内での使用済核燃料のキャスクへの保管と貯蔵容量を原則増加させないことを表明した。
2024年2月、関西電力は福井県内3カ所の原発全てに、使用済核燃料を空気で冷やす「乾式貯蔵施設」を建設する方針を発表。美浜原発(貯蔵容量:約100トン)、高浜原発(約350トン)、大飯原発(約250トン)の敷地内に建設し、2027〜30年に順次稼働する。関電の原発で発生する使用済核燃料の5〜6年分に相当する。
使用済燃料を15年以上プールで冷やした後、金属製キャスク移し替え、空気循環で冷却する。国内では日本原子力発電の東海第2原発で実用化され、四国電力や九州電力も設置する方針を示している。関西電力は移し替えで空いた貯蔵プールのスペースは原則使わないとし、貯蔵量を増やさないと説明している。
使用済核燃料の再処理工場の建設が30年超遅れたことで、電力会社の保有する原発内の貯蔵プールは、使用済核燃料で満杯状態にある。これを危惧した原発立地自治体の要請を受け、電力会社は独自に中間貯蔵施設の建設を開始した。しかし、これは問題の先送りに過ぎない。
問題の根本は再処理工場の建設の遅れである。莫大な投資と30年超の長期間をかけても解決できない難しい技術なのであろう。多くの国が経済的・技術的な難易度から、再処理から撤退したことからも伺い知れる。「核燃料の直接処分」に大きく方向転換する時にきているのではないだろうか?
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