2011年3月、東京電力福島第一原子力発電所では、東日本大震災の津波を受けて「炉心溶融」という重大事故(SA:Severe Accidentt)を引き起こした。原子炉建屋の一部が水素爆発で吹き飛び、多量の放射性物質を大気中に放出した。今でも損傷した炉心の冷却を続けており、高レベル汚染水を排出し処理を続けている。
このような重大事故を二度と起こさないために、各国ではプラントメーカーと協力して様々な安全対策を打ち出し研究開発を進めている。中でも、「事故耐性燃料(ATF:Accident Tolerant Fuel)」の開発は世界的なトレンドとなり、2030年以降の早期実現をめざして開発が進められている。
福島第一原発事故の経緯
各国で政府や原子力プラントメーカーが中心となり様々な安全対策を打ち出しているが、「福島第一原子力発電所」で起きた事故の経緯を再確認してみよう。
以下に、経済産業省が公表している「福島第一原子力発電所」で起きた事故の経緯をまとめる。
2011年3月の東日本大震災の津波により、福島第一原発では原子炉冷却機能が喪失して炉心への注水が停止した。これにより原子炉は空焚きの状態となり、炉心圧力と炉心燃料温度の上昇が始まった。
「冷却材喪失事故(LOCA:Loss Of Coolant Accident)」の設計基準である1200℃を超えて、燃料温度は上昇した。そのため燃料被覆管のジルコニウム合金(ジルカロイ)と水蒸気が酸化発熱反応を起こし、多量の水素発生が引き起こされた。
さらに炉心燃料の過熱は進み、「炉心溶融(ステンレス鋼の融点:1450℃、ジルカロイの融点:1760℃)、ウラン燃料(UO2)の融点:2850℃」が始まる。溶融した燃料は圧力容器を溶かして格納容器内に漏れ出し、多量の放射性物質が格納容器内にも放出された。
圧力を下げるため「格納容器ベント」が行われ、大気中に多量の放射性物質を含む蒸気が放出された。また、炉心損傷の影響で高温・高圧状態になった格納容器は閉じ込め機能が劣化し、格納容器から放射性物質や水素が原子炉建屋に漏れ出た。滞留した水素により1、3、4号機では水素爆発が発生した。
一方、冷却のために原子炉内に注水が行われたが、圧力容器や格納容器から漏れ出て、多量の放射性物質を含む「高レベル汚染水」となり、原子炉建屋地下やタービン建屋地下に滞留し、一部は海洋へ流出した。

原発の安全研究開発とは
「福島第一原子力発電所」で起きた重大事故を二度と起こさないため、2015年6月に経済産業省は「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」を策定し、規制基準以上の更なる安全性向上をめざし、公的研究機関やプラントメーカーの革新的安全性向上技術の実装・開発を継続支援している。
代表例として、自然災害やテロに強い高い安全性を有する「革新的軽水炉」の開発、事故時に水素発生を抑制する「事故耐性燃料」の開発、事故時に放射性物質の放出を防ぐ「放射性ガス処理技術」の開発、また、既存原子力発電所の長期安全運転を可能とする「高経年化対策技術」の開発などがあげられる。

中でも、重大事故発生時の「炉心温度の上昇」や「水素発生量の低減」を可能とする「事故耐性燃料(ATF:Accident Tolerant Fuel)」の開発は、実現可能性の高い技術として世界的なトレンドとなっている。
国内では、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、既存の原子力発電所(軽水炉)の活用が不可欠との認識が高まる中で、「事故耐性燃料(ATF)」の導入意義は極めて高いと考えられている。
すなわち、事故耐性燃料(ATF)は現行の核燃料に比べて耐熱性を高めることで、炉心溶融(メルトダウン)の進行を数十分~数時間程度遅らせ、事故時に核燃料を冷やす時間を稼ぐ狙いである。また、多量の水素発生を抑制できれば、水素爆発の危険性を大幅に低減することができる。
しかし、福島第一原発事故の直後に検討された事故耐性燃料(ATF)の概念は、核燃料そのものにも及ぶ抜本的な安全研究開発を念頭に置いていた。
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